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只今きょむはゆらいでおります

2008-05-21ストーリー

0 カチナシ( )

00:31 | 0 カチナシ( ) - 只今きょむはゆらいでおります のブックマークコメント

決着はついた。

カッサリオは、足もとに転がる「それ」を、表情もなく見下ろしていた。

「・・・それが、貴様の『全力』か」

目の前に、一つの首が転がっていた。先ほどまでの決闘の相手、だったものだ。少し離れたところに胴体も落ちている。

血飛沫舞う死闘が嵐を呼び込んだか、先程まで煌々と辺りを照らしていた満月は厚い暗雲の裏側に姿を隠していた。

「複製の獣、カチナシ、か」

ずきり、と、カッサリオの胸が不意に痛む。見ると小さな穴が開いている。どろりと血が滲み出る。目の前の首、その額の中央から突き出した角の、その先端が0.5リーデほど赤く染まっている。かろうじて急所には届かなかったが、それは正確にカッサリオの心臓を狙っていたのだ。

「たしかに、貴様の全力、受け取った。私が勝利した最後の要因は純粋な運だった。最期のほんの数瞬で、貴様は私に追いついたのだ」

カチナシが命を懸けて放った渾身の一撃。それが届かなかった原因は、些細な体勢の優劣。それは、コインの表と裏のような、どちらに転んでもおかしくないものだった。

「だが、これではどちらが勝ったとて、貴様に勝利はない。この決闘、貴様になんの価値があった・・・?」

カッサリオのその言葉は、侮蔑などではなく、心の底から疑問を投げ掛けるような響きを持っていた。

雨が降り出した。大粒の雨が相手の角についた血を洗い流す頃、カッサリオは去って行った。後には、首が残された。


その首は、カッサリオのものと寸分違わぬ形をしていた。

1 グレンデルヒ(1)

03:44 | 1 グレンデルヒ(1) - 只今きょむはゆらいでおります のブックマークコメント

昔昔あるところに、カチナシとオーシャットという二匹の獣がいました。

オーシャットには、体のところどころにいろいろな色の体毛が生えていました。二本の耳がぴんと天に向かって突き出ていて、そこだけが綺麗な純白だったのでした。

一方、カチナシという名前の獣には、はっきりした形がありませんでした。黒いもやの塊のようなものでしたが、それではしゃべったりできないので、オーシャットの前では黒い鳥のような形をとっていました。でも、はっきりした形がないので、ときどきくちばしが大きく歪んで口が閉まらなくなってしまったり、足がいつのまにか3本になってしまっていたりするのでした。

オーシャットはいろんなところを旅して、いろんな獣に出会っていて、カチナシはその話を聞くのが大好きでした。・・・

(~グレンデルヒ童話「7つの色のオーシャット」より)

2 オーシャット(1)

03:48 | 2 オーシャット(1) - 只今きょむはゆらいでおります のブックマークコメント

・・・と、童話ではこう始まる。しかし実際のところは、若干異なる。

オーシャットはもともと新雪よりも純白な体毛で、別にどこを旅するわけでもなかった。

ただ、ふとした拍子に未来が見えてしまったり、どこか遠くの世界が見えてしまったりする不思議な目を持っていた。そんな目を持って600年近くも生きているのだから、確かに色んなことを知っていた。色んな世界の、色んな話を知っていた。

ただ、それを誰かに話すことはほとんどなかった。誰かと会うこともほとんどなかった。

オーシャットは草原でひとり、毎日本を読む。悪戯好きの風が、たまに読んでいるページを勝手にめくり、先を急がせた。オーシャットはあわてて元のページに戻ったりしない。数ページを風に盗ませたまま、続きを読む。オーシャットは、ストーリーの流れみたいなものを気にしない。むしろぶつ切れになることを好んでいた節がある。


オーシャットには、未来がよく見えていた。そしてそれは自分も例外じゃない。自分がどう行動すれば、どういう結果になるのか、だいたい「目に見えて」いた。

オーシャットは、それがどうしようもなくつまらなかった。結果が分かっているサイコロなんて、振ってみたところで何が楽しいものか。そして、その先に見えるのは、100%、自分の死。そして世界の収縮。あまりいいものじゃない。

オーシャットは今日も本を読む。なるべく幻想的で、しかも荒唐無稽な話を好んだ。本だけが、オーシャットの期待を裏切ってくれる。だから、オーシャットは本を読み続けた。