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2007-12-15

[][]百年迷宮の魔女アステリア・TCGバトルロワイヤルプレストーリー 百年迷宮の魔女アステリア・TCGバトルロワイヤルプレストーリー - 脚のないはてなガラス(BoB flicker side) を含むブックマーク はてなブックマーク - 百年迷宮の魔女アステリア・TCGバトルロワイヤルプレストーリー - 脚のないはてなガラス(BoB flicker side) 百年迷宮の魔女アステリア・TCGバトルロワイヤルプレストーリー - 脚のないはてなガラス(BoB flicker side) のブックマークコメント

/1

長い名前の人間は死ね! なんたる理不尽な根源衝動にして戦闘原理だろうか。その不条理に捕捉され、アステリアと精霊は業火の中に包まれた。

「こんなところで、こんなに理不尽に力尽きるなんて……ッ」

アステリアは業火の苦痛と、それに勝る心中の無念に身も焦がれる思いであった。

「しかたがないのです。またリセットしてやりなおせばいいだけなのです……」

精霊の応えにも力がない。それがただの気休めにもならない、さらなる苦難の延長にすぎないことを理解しているためである。

「納得いかないッ! ここまで百年、全ての選択肢を過たず、リスクを完全に制御して、やっとたどり着いたのに、こんなランダムイベントで理不尽に巻き戻されるなんて許せないッ!!」

アステリアは崩れ行く自らの肉体を振り絞るようにして叫ぶ。

「神よッ!! いるなら返事しろ!! なぜこんな苦難を私に与える!!」

すでに手足は燃え尽き、身に潜めた魔力のみが上半身を守るに過ぎない。しかしそれでもアステリアは叫ぶ。

「苦難を与えるなら、勝機も与えろッ!! 不運を与えるなら、幸運も与えろッ!!」

胸も肩も焼け落ち、ただ首だけが残る体で、なお声にならない叫びを上げる。

「この世の均衡と秩序とやらを、この私に見せてみろ! 神よ!」

そしてアステリアは業火の中に灰となって崩れ落ちた。

/2

再びアステリアが目覚めたとき、そこはまったく身も知らぬ空間だった。無数の薬棚と実験道具、そしてグリモアが並ぶ壁。いずれ名のある魔道士の居室だろう。しかし、それは彼女の「過去」において見てきたどの風景とも異なっていた。そして――寝台に横たわる彼女を見下ろす、ふたつの人影。一方は嫣然とした微笑を浮かべる、妖艶な魔女。もう一方は、魔女に比べればまったく特徴のない――あえていえば不精さが目立つ眼鏡の女。しかし、いずれも巨大な魔力を隠そうともせず周囲に放っていた。その煌きは、眼鏡の女のほうが強い。

そして、最初に口を開いたのは、その眼鏡の女だった。

「神を試すとはなんとも豪胆な娘ね。気に入ったわ」

「あなたは――いったい?」

眼鏡の女の背負う強大な魔力の光背に気圧されながらも、かろうじてアステリアは問う。眼鏡の女は何気なく応えた。

「あたしはアハツィヒ・アイン。主なるアルセスの娘にして、森羅万象の攻め受けを司る、まあ、紀神、かな?」

紀神! 強大な力を持つ召喚士として生まれ、ノエレッテの呪いを受けて百年もの主観時間を生きてきたアステリアも、紀神と遭遇するのは――ましてやそれに話しかけられるのは初めての経験だった。主神アルセスや戦神セルラ=テリスには及ばないマイナーな神格とはいえ、目前に居るのはまぎれもない神の眷属。アステリアは畏怖し、驚愕し、言葉を失った。

「アハツィヒ様。少し驚かせてしまったようですわ」

魔女がアハツィヒに向かって云った。アハツィヒは頭をぽりぽりと掻きながら、魔女に向かって応える。

「あー。なんか最近付き合ってる人間はみんな不感症だから、神とか云っても冗談くらいにしか思わないんだよね。だからうっかり云っちゃった。この世界線では一応あたしでも権威らしきものがあるんだって忘れてたわ」

確かに、全く神らしくない。威厳というものがかけらもない。ただの、そこらにいる地味でがさつな女にしか見えない。むしろ、魔女のほうがよほど「それらしさ」を備えているだろう。ようやく驚愕から立ち直りつつあったアステリアがそこまで考えたところで、アハツィヒは彼女に向き直った。

「で、あんたがあたしを試すようなことを云ったから、気まぐれで拾い上げてあげたんだけど、よけいなお世話だったかしら?」

「――拾い上げた?」

まだ完全に思考能力が戻っていないアステリアは、そう鸚鵡返しに問い返すのみだ。

「そう。あんたがノエレッテの《ゲーム》でバッドエンドを迎えて、巻き戻しに入るところに介入して、この時間線に拾い上げたってこと。星見の塔トーナメントの直前にね」

「まあ、実際に拾い上げたのは私なのですけどね。アハツィヒ様自体は時空構造線に干渉できないのですから」

アハツィヒと魔女が云うその内容を咀嚼して、アステリアはようやく自分が「リセット」の窮地を脱したことを知った。強烈な安堵と感謝の念が沸き起こる。それを見て取ったアハツィヒは、一転して厳しい表情でアステリアに告げた。

「おっと。ありがとうとか云われる筋合いはないからね。あんたが神を試したように、神もあんたを試す権利がある」

「――それは、一体?」

恐れと疑惑を覚えつつ、アステリアは問う。

「あんたは星見の塔トーナメントに行って、もう一度あのノエレッテの閉鎖空間で戦うんだ。そして、それを勝ち抜いて来い。それができなきゃ、あんたはそのまま《ゲーム》の虜。いつまでもぐるぐる回っているがいいさ。でも、もし勝ち抜いたら――」

ノエレッテと交渉して《ゲーム》を終わらせてやる。神の権威と公正を、身を持って知らしめてやる。アハツィヒは確かにそう云った。

「やります! やらせてください!」

余りにも魅力的な条件だった。アステリアは身も蓋もなくそれに飛びついた。アハツィヒは苦笑いを浮かべると、アステリアに云った。

「現金なもんだ。だけど今のあんたじゃ、何度やっても勝機はない。勝機をよこせといったね? くれてやるとも――システィーナ、例のものは用意できてる?」

システィーナと呼ばれた魔女はアハツィヒに応えた。

「勿論です――ではアステリア。貴方に問うけど、これは一度交わしたら消えることのない契約。いえ、むしろ呪詛というべきもの。これを交わしたら、貴方はふたたび元の貴方に戻ることはない。貴方の振るう力は全て赤き血に塗れ、貴方が契約を交わした精霊もまた血に飢えたそれとなる。血塗られた殺戮の魔女。それが貴方の宿命となるのだけど――それでもいいかしら?」

システィーナの問いは酷く重いものだったが、アステリアにとってはそれすらも《ゲーム》の呪縛よりはるかに軽かった。

「ええ。それで勝機が得られるのならば、たとえ悪魔にでも魂を売ってみせる」

「それこそ神を試したものにふさわしい態度よ。嘉するべきね」

システィーナは微笑みを浮かべたまま、アステリアの胸元に指を這わせた。じっとしているように、と告げると、その赤い爪先を、アステリアの胸に沈み込ませていく。たちまち血が溢れ、薄絹を濡らし、寝台へと滴り落ちていく。不思議と痛みはない。ただ、爪が胸の奥深くに沈み込んでいくと共に、そこから熱い塊が生まれ、全身へと広がっていく感覚を覚えた。

「森羅万象の攻め受けを司る紀神アハツィヒ・アインが命により、赤槍騎士団が2位、赤き月の眷属、赤き爪のシスティーナの名において、時迷宮の魔女アステリアとの契約を締結す。この赤き爪宿りし者に、我等が真祖の恩寵を与えん。真祖の恩寵は赤き月の恩寵。真祖の恩寵は赤き血肉の恩寵。その魂と血肉の全てに、我等が真祖の真紅の恩寵を与えん――」

システィーナの詠唱と共に、意識が書き換えられていく。莫大な量の定言命令と論理式がなだれ込む。魂の初期化。魂の座に位置する根源衝動の書き換えと、それによる存在定義の更新。システィーナの恩寵が、アステリアを侵食していく。それは殺戮本能。敵の血肉を喰らい、啜り、自らの血肉とせんとする赤い狂気。そのおぞましさにアステリアは悲鳴を上げようとした。だが、声を出すことすらままならぬ。既に全身に及んだ契約の力が、彼女を縛り、支配しているのだ。視界が真紅に染まる。理性が獣性に駆逐される。そして、自らの意識が途切れようとする瞬間、アステリアは獣の咆哮を聞いた。それが自らの喉から出ているものだと意識することなく――。

やがて再び眼を覚ましたとき、全ては終わっていた。あれだけ溢れた血の跡は欠片も残っておらず、システィーナがアステリアを覗き込んでいる。

「どうかしら、我等が赤き月の一族として生まれ変わった気分は?」

視界は赤く染まっていた。全身が熱く煮えたぎっていた。血に飢えた獣の殺戮衝動が胸中で荒れ狂っていた。それを押さえ込むのに精一杯で、アステリアは声を発することすらできなかった。その様を見て、システィーナは会心の笑みを浮かべた。

「その調子なら大丈夫よ。貴方は貴方の自由意志で力を使える。獣を押さえ込むことができる。だけど――」

貴方は一生、その獣と共にあり続けるのよ、と、システィーナは云った。その口元には、鋭い牙が光っていた。

/3

「で、なんであの子に与えた力がアレなわけ?」

アハツィヒはシスティーナに問う。システィーナがアステリアに与えた力は、確かに強いが、絶対的といえるほどではない。手練の戦士相手には通用しないだろう。彼女はそう読んでいた。

システィーナは嫣然と応える。

「局面の攻め受けを変換したいという貴方の願いに応えたまでですよ。それ以上でも、それ以下でもありません」

アハツィヒは眉をわずかにひそめた。

「――なるほどね。別にあの子が勝ち抜かなくてもいい、そう考えているわけだ」

この魔女め。つくづく根性が捻じ曲がっている、と、アハツィヒは思う。あの哀れな娘を更なる試練に突き落とし、もてあそぶことにしか興味がない。不快さが募る。その顔色を窺ってか、システィーナは怪訝そうにした。

「意外です。貴方こそ、局面の攻め受け以外に興味はないと思っていたのですが」

「ああ――そうね。だからこそ、気に入らないんだけど」

アハツィヒの求める攻め受けの調和とは、万物が攻めでありながら同時に受けでもありうる構図。陰陽両儀から発し四象を生じて八卦に至る壮大な攻防一体の曼荼羅。その鬩ぎあいの中に宇宙は常に生成消滅し、安定してあり続ける。であるからこそ、過大に「受け」を背負わされ、それゆえに魂からの叫びを上げたあの娘に、それに応じた、強い「攻め」の機を与えたかったのだ。だというのに、この魔女は。

「――では、私を罰しますか? 私は主神アルセスの忠実な僕。その娘である貴方にも逆らうつもりはありません」

システィーナはしおらしく問うた。しかし、その唇には笑みが浮かんでいる。慇懃無礼な態度に苛立って、アハツィヒは刺々しく応えた。

「父アルセスの忠実な僕に私が罰を下す? それこそありえない。魔道士が言葉をもてあそぶものではないわ」

それに、アハツィヒは「賞罰を与えるもの」ではない。あくまで「攻め受けを司るもの」にすぎない。システィーナの台詞は、それを読みきってのものだ。そして、その駆け引きを――策謀と呪詛をこととし、獣性をもてあそぶこの女の性質を厭わしく思いながらも、アステリアへの救いの手として彼女を選んだのはアハツィヒ自身だというのも、また事実だった。だから彼女は溜息交じりに呟く。

「まあ、いいさ。少なくとも、アステリアは機会を手に入れた。あんたの介入によって。それをどう用いるかは、彼女次第だろうね」

「――無事に勝ち抜くといいですわね」

システィーナはくすくすと笑う。永劫線を渡り、見通す術を手にしたこの魔女には、次なる戦いの経緯すら見えているのだろう。【紀】性を持つがゆえに、全ての可能性を見る反面、ひとつの線的時間軸内での経緯を見ることは、アハツィヒには不可能だ。しかし魔女にはそれができる。彼女の【眼】――そこにはどのような結末が写っているのか。問おうとして、アハツィヒは止まった。そこまで関わることではない。所詮は気まぐれに過ぎないのなら、自分もこの魔女のようにあればいいのだ。いいはずなのだ。

だが――数多の世界線で人間に触れすぎたアハツィヒには、そこまで割り切ることはできそうになかった。

JulianirJulianir 2012/08/14 18:06 Please teach the rest of these internet hooligans how to write and resacerh!

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