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2007-12-24

[][][]クリスマスのクラニス クリスマスのクラニス - 脚のないはてなガラス(BoB flicker side) を含むブックマーク はてなブックマーク - クリスマスのクラニス - 脚のないはてなガラス(BoB flicker side) クリスマスのクラニス - 脚のないはてなガラス(BoB flicker side) のブックマークコメント

/1

雪が降る道をどこへともなくふらふら歩く。きらびやかなイルミネーションもどことなくよそよそしく感じられるのは、また今年もひとりだからだろうか。ポケットに入れたケータイの、着信数は0件で、あいつからのメールも届かない。せっかくのホワイトクリスマスも、あたしにとってはただ寒いだけ。溜息をつくと、白い吐息が暗い空へと上がっていった。

あたしがこんなに寂しいのは、ここがあたしの居るべき場所でないからなのだろう。物心ついたときから、あたしは自分がそうしたものだと知っていた。クラニス。あたしの本当の名前。どこか遠く、ここでない場所に居る71人の不思議な姉妹のひとり。それは胸の中で固い確信になっていて、そうしたものだと当然のように受け入れているのに、誰もそれを信じてくれない。語るたびに人に笑われ、気味悪がれ、遠ざけられて、いつのまにかひとりぼっちになることを繰り返した。だからあたしは、誰にもそれを語らなくなった。ひとりぼっちでいることは、自分を偽るよりつらいことだから。

そうしてからは友達もできた。自分を偽り隠して、上辺だけを取り繕えば、案外どうにかなるものだ。だけどそんなのが本当の友達といえるのだろうか。あたしはそんな疑問を押し殺して、無理に笑ってごまかしてきた。そうしていると彼氏もできた。あいつはがさつで鈍感だけど優しい奴で、あたしにとってはかけがえのない存在だった。だからうっかり秘密を漏らした。あたしはクラニスキュトスの71姉妹のひとり。いつかどこかにいるほかの姉妹たちが、あたしを迎えにくるんだと。

あいつは怪訝そうな顔をして、あたしの話を呑み込んだ。そして云った。「俺には良くわからない」と。それからあいつはよそよそしくなった。廊下で会っても目をそらすし、ケータイにもメールしてくれなくなった。

ああ。あいつにもわからないんだ。そうなんだ。うっかりしてた。これは誰にもわからないこと。あたしだけの真実で、よそから見れば多分妄想。夢と現の狭間のエアポケットにあたしはいて、そこから出ることは叶わないんだ。そう思うと、なんだかとても泣きたくなって、あたしは顔をうつむけた。

「どうしたの、そんな悲しい顔をして」

突然声を掛けられて、あたしは驚き振り向いた。そこにいたのは、髪を赤く染めたあたしと同じ年頃の男の子。きれいな顔に微笑を浮かべて、楽しそうに語りかけてくる。

「こんなところでぼうっとしてたら風邪引いちゃうよ。どうせならぼくとお茶でもしない?」

これがナンパというものなのかな。初めての経験にあたしは戸惑う。でも、その男の子が何故か他人でない気がして、あたしはおずおずと頷いた。

/2

暖色の明かりに包まれた喫茶店。店の真ん中には大きなクリスマスツリー、壁際に掛かるクリスマスリース。あたしと男の子はふたりして窓際のボックス席に。周りの席は男女のカップルばかりで、あたしたちも周りからはそう見えるんだろう。

ショートケーキとコーヒーを注文して、一息ついたところで、男の子が云った。

「クリスマスの本来の意味を知ってるかい?」

「そんなの知ってる。イエス・キリストの聖誕祭でしょ」

そう応えたら、男の子はくすくす笑った。

「それはね、キリスト教がヨーロッパに広がってからのことさ。それより前から、この季節にはかならずお祭りをすることになってたんだ」

「へえ。それは知らなかった。どうしてなの?」

「この季節は1年で1番日が短くなる頃だろ? ちょうど昨日は冬至だったよね?」

そういわれればそうだった。あたしは頷く。

「昔の人々は日の長さで1年を決めてたんだ。だから、冬至の季節には1年の過ぎ越しの祭りをしたのさ。今年は1年頑張ったって自分をほめてあげて、新しい1年はいい年になりますようにって、願いを込めてね」

「へぇ、そうなんだ――」

と、納得してから、ふと気持ちが暗く沈む。クリスマスが過ぎ越しの祭りなら、あたしの今年は本当に最悪の終わりだった。そして多分、次の年も同じように始まって、同じように終わるのだろう。例えそうでないとしても、あたしは自分をごまかし続けて、張り付いた笑顔の下で少しずつ磨耗していくのだろう。あたしがクラニスであることを止めない限り。姉さんたちが迎えに来ない限り。そして――そんなときは、きっと、最後まで来ない。

「どうしたの? 泣いてるの?」

少年が怪訝そうに聞いた。あたしははっとして顔を上げた。気がついたら頬を涙が伝っていた。あたしは恥ずかしさの余り小さくなる。どうしよう、いきなり泣き出したりして、変な子だと思われなかっただろうか。きっと思われたに違いない。あたしはどうしていつもこうなんだろう。そんなことを思ってまた泣きたくなるのを我慢する。

「悲しいことがあったんだね。話してごらんよ。過ぎた年のことはここで落とすのが慣わしなんだから」

男の子がそういうと、あたしの中で何かが切れた。涙がぽろぽろこぼれてきて、堰を切ったように止まらなくなる。泣きじゃくりながらあたしは話した。クラニスのこと。臆病で嘘つきなあたしのこと。そしてあいつのこと。初対面の、何も知らない相手に、あたしはまるで昔からの知り合いであるかのように、一切合財話してしまった。

あたしの話を聞き終えると、男の子は云った。

「大丈夫だよ。彼は君のことを嫌ってなんかいない。ただ少し戸惑っているだけさ。だから気にしなくていい」

「本当に? あたし、こんな変な子なのに。頭がおかしい子なのに」

すると男の子は真顔になった。

「君は別におかしいわけじゃない。それはぼくが保証するよ」

あたしは頭を振って大声を上げる。

「そんなこといって! どうせあたしの話にあわせてるだけなんでしょ?」

男の子はあたしの目を見つめ、静かに云う。

「違う。自分の名前にかけて誓う。その証拠に、きみしか知らないはずのことを云ってあげよう」

そして彼はあたしの耳元でささやいた。あたしの姉妹の長姉の名を。

「うそ――なんでそれを知ってるの。誰にも話したことなんてないのに」

呆然とするあたし。彼は一体何者なんだろう。どうしてそんなことを知っているのだろう。

「だから云ったろう。ぼくは真実を話している。君はクラニスキュトスの姉妹の66番。それに一切の間違いはない――間違っているのは世界と、そして、たぶん、ぼくだ」

男の子は告げる。さっきまでと全く違った、厳粛で、そしてどこか後悔しているような感じで。

「あなたは、いったい、誰?」

恐れと戸惑いを感じながら、かろうじて喉から搾り出した問いに。

「ぼくはアルセス。きみたちがそうなる原因を作った、張本人さ」

苦い笑いを浮かべて彼は応えた。そして言葉を続ける。

「ここは本来の君の場所じゃない。そして、誰も君を本来の場所に戻すことはできない――車輪の女王、ヘリステラの力をもってしても、この辺土に訪れて、君に手を差し伸べることは無理だろう」

あたしは叫ぶ。

「なら貴方が連れてって! ここに来られるなら、連れて行くのもできるでしょう!!」

もういやだ。誰にも信じられずにひとりでいるのも、取り繕った嘘を吐き続けるのも、真実を語って遠ざけられるのも、全部、全部! だけど男の子はかぶりを振った。

「残念だがぼくにも無理だ。ここに出入りできるのは、ぼくの力ではひとりが限界なんだ」

「そんな――」

あたしは高い場所から突き落とされたような気がした。全てが失われていく虚無感に、うつむいて縮こまって耐えるしかない。そんなあたしを、男の子は哀れむような目で見ていた、ような気がする。

ややあって、男の子はいった。

「だけど――最初に云ったように、きみはひとりじゃない。きみには――彼がいるだろう?」

その途端、ここ数日鳴らなかったケータイが、明るいクリスマスソングを奏でた。

/3

『ごめんよ。俺、あの時どう応えていいか判らなかったんだ』

ケータイから聞こえるのはあいつの声。がさつで鈍感で、だけど優しいあいつが、不器用にあたしに話しかけてくる。

『でも――俺はずっと考えてて思ったんだ。おまえがなんであっても、おまえはおまえだ。だったら――おまえが何だって、俺は構わないよな?』

あたしは黙ってその声を聞いている。

『だからさ。せっかくのクリスマスなんだし、云うよ――』

そこであいつは言葉を区切り、

『俺は、おまえが好きだ。おまえがなんであろうと、好きなんだ』

そう、はっきりと云ってくれた。

「――ありがとう」

あたしの声はか細くて、とても嬉しそうには聞こえなかったかもしれない。だけど。本当に本当にうれしくて、あたしは涙をこぼしてしまった。

『おい、大丈夫かよ。泣くなよ。俺がついてやるからさ。おまえ、今どこに居るんだ? 今すぐそこに行くよ』

「ありがとう――ありがとう――」

あたしはそう繰り返す。それしか応えを知らなくて。それしか声にならなくて。涙がぽたぽたこぼれるたびに、あたしの胸にわだかまっていた苦しみが解けて外へと解放されていくような気がした。

そんなあたしの背に、男の子が声を掛けた。

「メリークリスマス、クラニス

振り返るとすでに男の子の姿は消えていた。だけど、あたしは応えた。

「メリークリスマス、アルセス

あたしはもう迷わない。だって、あたしはもうひとりぼっちじゃない。あたしはクラニスキュトスの姉妹の66番目。そして、この世界で生きていく、ひとりの人間。それを彼は教えてくれたのだから。

2007-12-15

[][]百年迷宮の魔女アステリア・TCGバトルロワイヤルプレストーリー 百年迷宮の魔女アステリア・TCGバトルロワイヤルプレストーリー - 脚のないはてなガラス(BoB flicker side) を含むブックマーク はてなブックマーク - 百年迷宮の魔女アステリア・TCGバトルロワイヤルプレストーリー - 脚のないはてなガラス(BoB flicker side) 百年迷宮の魔女アステリア・TCGバトルロワイヤルプレストーリー - 脚のないはてなガラス(BoB flicker side) のブックマークコメント

/1

長い名前の人間は死ね! なんたる理不尽な根源衝動にして戦闘原理だろうか。その不条理に捕捉され、アステリアと精霊は業火の中に包まれた。

「こんなところで、こんなに理不尽に力尽きるなんて……ッ」

アステリアは業火の苦痛と、それに勝る心中の無念に身も焦がれる思いであった。

「しかたがないのです。またリセットしてやりなおせばいいだけなのです……」

精霊の応えにも力がない。それがただの気休めにもならない、さらなる苦難の延長にすぎないことを理解しているためである。

「納得いかないッ! ここまで百年、全ての選択肢を過たず、リスクを完全に制御して、やっとたどり着いたのに、こんなランダムイベントで理不尽に巻き戻されるなんて許せないッ!!」

アステリアは崩れ行く自らの肉体を振り絞るようにして叫ぶ。

「神よッ!! いるなら返事しろ!! なぜこんな苦難を私に与える!!」

すでに手足は燃え尽き、身に潜めた魔力のみが上半身を守るに過ぎない。しかしそれでもアステリアは叫ぶ。

「苦難を与えるなら、勝機も与えろッ!! 不運を与えるなら、幸運も与えろッ!!」

胸も肩も焼け落ち、ただ首だけが残る体で、なお声にならない叫びを上げる。

「この世の均衡と秩序とやらを、この私に見せてみろ! 神よ!」

そしてアステリアは業火の中に灰となって崩れ落ちた。

/2

再びアステリアが目覚めたとき、そこはまったく身も知らぬ空間だった。無数の薬棚と実験道具、そしてグリモアが並ぶ壁。いずれ名のある魔道士の居室だろう。しかし、それは彼女の「過去」において見てきたどの風景とも異なっていた。そして――寝台に横たわる彼女を見下ろす、ふたつの人影。一方は嫣然とした微笑を浮かべる、妖艶な魔女。もう一方は、魔女に比べればまったく特徴のない――あえていえば不精さが目立つ眼鏡の女。しかし、いずれも巨大な魔力を隠そうともせず周囲に放っていた。その煌きは、眼鏡の女のほうが強い。

そして、最初に口を開いたのは、その眼鏡の女だった。

「神を試すとはなんとも豪胆な娘ね。気に入ったわ」

「あなたは――いったい?」

眼鏡の女の背負う強大な魔力の光背に気圧されながらも、かろうじてアステリアは問う。眼鏡の女は何気なく応えた。

「あたしはアハツィヒ・アイン。主なるアルセスの娘にして、森羅万象の攻め受けを司る、まあ、紀神、かな?」

紀神! 強大な力を持つ召喚士として生まれ、ノエレッテの呪いを受けて百年もの主観時間を生きてきたアステリアも、紀神と遭遇するのは――ましてやそれに話しかけられるのは初めての経験だった。主神アルセスや戦神セルラ=テリスには及ばないマイナーな神格とはいえ、目前に居るのはまぎれもない神の眷属。アステリアは畏怖し、驚愕し、言葉を失った。

「アハツィヒ様。少し驚かせてしまったようですわ」

魔女がアハツィヒに向かって云った。アハツィヒは頭をぽりぽりと掻きながら、魔女に向かって応える。

「あー。なんか最近付き合ってる人間はみんな不感症だから、神とか云っても冗談くらいにしか思わないんだよね。だからうっかり云っちゃった。この世界線では一応あたしでも権威らしきものがあるんだって忘れてたわ」

確かに、全く神らしくない。威厳というものがかけらもない。ただの、そこらにいる地味でがさつな女にしか見えない。むしろ、魔女のほうがよほど「それらしさ」を備えているだろう。ようやく驚愕から立ち直りつつあったアステリアがそこまで考えたところで、アハツィヒは彼女に向き直った。

「で、あんたがあたしを試すようなことを云ったから、気まぐれで拾い上げてあげたんだけど、よけいなお世話だったかしら?」

「――拾い上げた?」

まだ完全に思考能力が戻っていないアステリアは、そう鸚鵡返しに問い返すのみだ。

「そう。あんたがノエレッテの《ゲーム》でバッドエンドを迎えて、巻き戻しに入るところに介入して、この時間線に拾い上げたってこと。星見の塔トーナメントの直前にね」

「まあ、実際に拾い上げたのは私なのですけどね。アハツィヒ様自体は時空構造線に干渉できないのですから」

アハツィヒと魔女が云うその内容を咀嚼して、アステリアはようやく自分が「リセット」の窮地を脱したことを知った。強烈な安堵と感謝の念が沸き起こる。それを見て取ったアハツィヒは、一転して厳しい表情でアステリアに告げた。

「おっと。ありがとうとか云われる筋合いはないからね。あんたが神を試したように、神もあんたを試す権利がある」

「――それは、一体?」

恐れと疑惑を覚えつつ、アステリアは問う。

「あんたは星見の塔トーナメントに行って、もう一度あのノエレッテの閉鎖空間で戦うんだ。そして、それを勝ち抜いて来い。それができなきゃ、あんたはそのまま《ゲーム》の虜。いつまでもぐるぐる回っているがいいさ。でも、もし勝ち抜いたら――」

ノエレッテと交渉して《ゲーム》を終わらせてやる。神の権威と公正を、身を持って知らしめてやる。アハツィヒは確かにそう云った。

「やります! やらせてください!」

余りにも魅力的な条件だった。アステリアは身も蓋もなくそれに飛びついた。アハツィヒは苦笑いを浮かべると、アステリアに云った。

「現金なもんだ。だけど今のあんたじゃ、何度やっても勝機はない。勝機をよこせといったね? くれてやるとも――システィーナ、例のものは用意できてる?」

システィーナと呼ばれた魔女はアハツィヒに応えた。

「勿論です――ではアステリア。貴方に問うけど、これは一度交わしたら消えることのない契約。いえ、むしろ呪詛というべきもの。これを交わしたら、貴方はふたたび元の貴方に戻ることはない。貴方の振るう力は全て赤き血に塗れ、貴方が契約を交わした精霊もまた血に飢えたそれとなる。血塗られた殺戮の魔女。それが貴方の宿命となるのだけど――それでもいいかしら?」

システィーナの問いは酷く重いものだったが、アステリアにとってはそれすらも《ゲーム》の呪縛よりはるかに軽かった。

「ええ。それで勝機が得られるのならば、たとえ悪魔にでも魂を売ってみせる」

「それこそ神を試したものにふさわしい態度よ。嘉するべきね」

システィーナは微笑みを浮かべたまま、アステリアの胸元に指を這わせた。じっとしているように、と告げると、その赤い爪先を、アステリアの胸に沈み込ませていく。たちまち血が溢れ、薄絹を濡らし、寝台へと滴り落ちていく。不思議と痛みはない。ただ、爪が胸の奥深くに沈み込んでいくと共に、そこから熱い塊が生まれ、全身へと広がっていく感覚を覚えた。

「森羅万象の攻め受けを司る紀神アハツィヒ・アインが命により、赤槍騎士団が2位、赤き月の眷属、赤き爪のシスティーナの名において、時迷宮の魔女アステリアとの契約を締結す。この赤き爪宿りし者に、我等が真祖の恩寵を与えん。真祖の恩寵は赤き月の恩寵。真祖の恩寵は赤き血肉の恩寵。その魂と血肉の全てに、我等が真祖の真紅の恩寵を与えん――」

システィーナの詠唱と共に、意識が書き換えられていく。莫大な量の定言命令と論理式がなだれ込む。魂の初期化。魂の座に位置する根源衝動の書き換えと、それによる存在定義の更新。システィーナの恩寵が、アステリアを侵食していく。それは殺戮本能。敵の血肉を喰らい、啜り、自らの血肉とせんとする赤い狂気。そのおぞましさにアステリアは悲鳴を上げようとした。だが、声を出すことすらままならぬ。既に全身に及んだ契約の力が、彼女を縛り、支配しているのだ。視界が真紅に染まる。理性が獣性に駆逐される。そして、自らの意識が途切れようとする瞬間、アステリアは獣の咆哮を聞いた。それが自らの喉から出ているものだと意識することなく――。

やがて再び眼を覚ましたとき、全ては終わっていた。あれだけ溢れた血の跡は欠片も残っておらず、システィーナがアステリアを覗き込んでいる。

「どうかしら、我等が赤き月の一族として生まれ変わった気分は?」

視界は赤く染まっていた。全身が熱く煮えたぎっていた。血に飢えた獣の殺戮衝動が胸中で荒れ狂っていた。それを押さえ込むのに精一杯で、アステリアは声を発することすらできなかった。その様を見て、システィーナは会心の笑みを浮かべた。

「その調子なら大丈夫よ。貴方は貴方の自由意志で力を使える。獣を押さえ込むことができる。だけど――」

貴方は一生、その獣と共にあり続けるのよ、と、システィーナは云った。その口元には、鋭い牙が光っていた。

/3

「で、なんであの子に与えた力がアレなわけ?」

アハツィヒはシスティーナに問う。システィーナがアステリアに与えた力は、確かに強いが、絶対的といえるほどではない。手練の戦士相手には通用しないだろう。彼女はそう読んでいた。

システィーナは嫣然と応える。

「局面の攻め受けを変換したいという貴方の願いに応えたまでですよ。それ以上でも、それ以下でもありません」

アハツィヒは眉をわずかにひそめた。

「――なるほどね。別にあの子が勝ち抜かなくてもいい、そう考えているわけだ」

この魔女め。つくづく根性が捻じ曲がっている、と、アハツィヒは思う。あの哀れな娘を更なる試練に突き落とし、もてあそぶことにしか興味がない。不快さが募る。その顔色を窺ってか、システィーナは怪訝そうにした。

「意外です。貴方こそ、局面の攻め受け以外に興味はないと思っていたのですが」

「ああ――そうね。だからこそ、気に入らないんだけど」

アハツィヒの求める攻め受けの調和とは、万物が攻めでありながら同時に受けでもありうる構図。陰陽両儀から発し四象を生じて八卦に至る壮大な攻防一体の曼荼羅。その鬩ぎあいの中に宇宙は常に生成消滅し、安定してあり続ける。であるからこそ、過大に「受け」を背負わされ、それゆえに魂からの叫びを上げたあの娘に、それに応じた、強い「攻め」の機を与えたかったのだ。だというのに、この魔女は。

「――では、私を罰しますか? 私は主神アルセスの忠実な僕。その娘である貴方にも逆らうつもりはありません」

システィーナはしおらしく問うた。しかし、その唇には笑みが浮かんでいる。慇懃無礼な態度に苛立って、アハツィヒは刺々しく応えた。

「父アルセスの忠実な僕に私が罰を下す? それこそありえない。魔道士が言葉をもてあそぶものではないわ」

それに、アハツィヒは「賞罰を与えるもの」ではない。あくまで「攻め受けを司るもの」にすぎない。システィーナの台詞は、それを読みきってのものだ。そして、その駆け引きを――策謀と呪詛をこととし、獣性をもてあそぶこの女の性質を厭わしく思いながらも、アステリアへの救いの手として彼女を選んだのはアハツィヒ自身だというのも、また事実だった。だから彼女は溜息交じりに呟く。

「まあ、いいさ。少なくとも、アステリアは機会を手に入れた。あんたの介入によって。それをどう用いるかは、彼女次第だろうね」

「――無事に勝ち抜くといいですわね」

システィーナはくすくすと笑う。永劫線を渡り、見通す術を手にしたこの魔女には、次なる戦いの経緯すら見えているのだろう。【紀】性を持つがゆえに、全ての可能性を見る反面、ひとつの線的時間軸内での経緯を見ることは、アハツィヒには不可能だ。しかし魔女にはそれができる。彼女の【眼】――そこにはどのような結末が写っているのか。問おうとして、アハツィヒは止まった。そこまで関わることではない。所詮は気まぐれに過ぎないのなら、自分もこの魔女のようにあればいいのだ。いいはずなのだ。

だが――数多の世界線で人間に触れすぎたアハツィヒには、そこまで割り切ることはできそうになかった。

JulianirJulianir2012/08/14 18:06Please teach the rest of these internet hooligans how to write and resacerh!

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2007-12-14

[][]野試合リハーサルプレストーリー 野試合リハーサルプレストーリー - 脚のないはてなガラス(BoB flicker side) を含むブックマーク はてなブックマーク - 野試合リハーサルプレストーリー - 脚のないはてなガラス(BoB flicker side) 野試合リハーサルプレストーリー - 脚のないはてなガラス(BoB flicker side) のブックマークコメント

怒号、罵声、振るわれる拳と剣。混沌と暴力の巷と化した観客席の中を潜り抜け、一散に駆け抜けるひとりの少女がいる。小さな身体に見合わぬ大きな呪具を身に纏い、巫女の徴である文身を半ば顕にしたあられない格好で走る姿は、年若き召喚士のそれだ。

走る彼女の耳元で、精霊がささやく。

「あうあう、このままだとまたバッドエンドなのです」

「判っているわ。だからできるだけ遠く離れないと。こんな分岐点でもない場所で野垂れ死にするのはごめんよ」

応える少女の口調に年相応の稚さはなく、どこかすさんだ雰囲気を漂わせている。

「これもあの魔女の仕業なのでしょうか?」

「いや、これは偶発的なもの。あの魔女ならこんなつまらないイベントを仕込んだりしない――」

精霊の問いに少女が応えた瞬間。

観客席に激震が走ると共に、一帯がまぶしい光に覆われた。

「――い、いったい何が!?」

「あうあうあうあう!!」

少女と精霊はなすすべもなくその中へと巻き込まれていく。やがてそれらが収まった後、ふたりは自分たちがまったく身も知らぬ空間に浮かんでいることに気づいた。柔らかい光に包まれた、巨大な伽藍状の空間。そのあちこちに、先ほどまで騒いでいた観客たちの姿が見える。

「あうあう……どうやらここは閉鎖空間のようなのです」

周囲に注意を払っていた精霊が結論を出した。少女は眉をひそめ、辺りを窺う。

「――ノエレッテの悪戯ね。あいつ、今度は何を企んでるのかしら」

そうつぶやいた瞬間、全くの死角から声がした。

「企んでるとは人聞きが悪いわねぇ」

少女が振り向くと、そこにはキュトスの魔女のひとりが、忽然と姿を現していた。

ノエレッテ!」

少女――召喚士アステリアはノエレッテを睨みつける。視線で人が殺せるならば、キュトスの魔女とて唯ではすまないほどの殺気を乗せて。だが魔女はそれを悠然と受け流し、ケープのすそを引き上げて、悠然と挨拶をしてみせた。

「お久しぶりね、アステリア。貴方の主観時間では721万5百15秒ぶりかしら」

「おかげさまで、まだ元気にしてるわよ」

少女はノエレッテを睨みつけたまま、口元をゆがめて応える。ノエレッテはそれを受けて、楽しそうに微笑んだ。

「そうそうその調子よ。でなくちゃ私も《ゲーム》を仕掛けた甲斐がないもの――それにしても、貴方の時間軸内での軌跡はもつれ合い繰り込まれて、まるでひとつのタペストリみたい。ただの人間がここまで面白い模様を描くなんて思っても見なかった」

「――その経緯を編み出したのは貴方でしょう。私はそれと気づかず、貴方との契約にサインしてしまった。うかつだったわ」

《ゲーム》。それはアステリアがノエレッテに掛けられた呪い。「永遠の命」を望んだアステリアに与えられた代償。無限にループする時間の中で、最適手順を発見し、それをクリアしていかなければ抜け出せない時の迷宮。

「そうね。我ながらステキな思い付きだったわ」

ふふふ、私ってなんて芸術のセンスがあるのかしら、と、自画自賛しながらノエレッテは身をくねくねさせる。内心の憤怒を押し殺して、アステリアは問うた。

「そんなことはどうでもいいわ。私たちを閉鎖空間に追い込んでどうするつもりなの?」

当然のようにノエレッテは応えた。

「もちろん、バトルロワイヤルよ。みなさん拳で決着をつけたがっていたみたいだし、せっかくだから私が舞台を用意して差し上げたわけ。あなたも付き合ってもらうわよ」

「なんでそんなことに付き合わなきゃならないのよ!」

アステリアの憤怒が噴き出す。自分には《ゲーム》という絶対課題があるのだ。こんなランダムイベントで足止めを喰らっている暇はない。そう主張しようとした矢先、ノエレッテが思わせぶりに吐いた一言が、アステリアを沈黙させた。

「これが《ゲーム》のイベントだとしても?」

「――!」

《ゲーム》。それは絶対命題。アステリアの実存を掛けた戦い。それのイベントであるならば、回避はできない。その心胆を見抜いたかのように、ノエレッテは畳み掛ける。

「勝ち抜いて御覧なさいアステリア。無事に勝ち抜けたら、今後3分岐の重要なヒントを教えてあげるわ」

「――負けたらどうなるの?」

「いつもの通りよ。巻き戻るだけ。ランダムにね。問題ないでしょう? そこまでの分岐の最適手順は覚えているんだから」

いくばくかの沈黙。アステリアは静かに応諾した。

「――判ったわ。その話、乗ってやろうじゃないの」

それを聞いて、精霊が慌てる。

「冗談じゃないのです。このままだと勝てる見込みは万にひとつもないのです」

だがアステリアは力強く応える。

「その万にひとつも、1万回繰り返せば突破できる。わたしたちはそうするしかないのよ」

「あうあう――わかりましたなのです」

精霊はアステリアの気迫に押されて頷く。そのやりとりを見ていたノエレッテが、会心の笑みを浮かべていった。

「なら決まりね。せいぜい頑張ってらっしゃい。また、時のどこかで会いましょう」

そして、その笑みを最後にして、空間へと溶け込んでいく。

アステリアと精霊は互いに見つめあい、頷くと、戦いの場へと足を踏み入れていった。