脚のないはてなガラス(BoB flicker side) このページをアンテナに追加

2007-12-14

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怒号、罵声、振るわれる拳と剣。混沌と暴力の巷と化した観客席の中を潜り抜け、一散に駆け抜けるひとりの少女がいる。小さな身体に見合わぬ大きな呪具を身に纏い、巫女の徴である文身を半ば顕にしたあられない格好で走る姿は、年若き召喚士のそれだ。

走る彼女の耳元で、精霊がささやく。

「あうあう、このままだとまたバッドエンドなのです」

「判っているわ。だからできるだけ遠く離れないと。こんな分岐点でもない場所で野垂れ死にするのはごめんよ」

応える少女の口調に年相応の稚さはなく、どこかすさんだ雰囲気を漂わせている。

「これもあの魔女の仕業なのでしょうか?」

「いや、これは偶発的なもの。あの魔女ならこんなつまらないイベントを仕込んだりしない――」

精霊の問いに少女が応えた瞬間。

観客席に激震が走ると共に、一帯がまぶしい光に覆われた。

「――い、いったい何が!?」

「あうあうあうあう!!」

少女と精霊はなすすべもなくその中へと巻き込まれていく。やがてそれらが収まった後、ふたりは自分たちがまったく身も知らぬ空間に浮かんでいることに気づいた。柔らかい光に包まれた、巨大な伽藍状の空間。そのあちこちに、先ほどまで騒いでいた観客たちの姿が見える。

「あうあう……どうやらここは閉鎖空間のようなのです」

周囲に注意を払っていた精霊が結論を出した。少女は眉をひそめ、辺りを窺う。

「――ノエレッテの悪戯ね。あいつ、今度は何を企んでるのかしら」

そうつぶやいた瞬間、全くの死角から声がした。

「企んでるとは人聞きが悪いわねぇ」

少女が振り向くと、そこにはキュトスの魔女のひとりが、忽然と姿を現していた。

ノエレッテ!」

少女――召喚士アステリアはノエレッテを睨みつける。視線で人が殺せるならば、キュトスの魔女とて唯ではすまないほどの殺気を乗せて。だが魔女はそれを悠然と受け流し、ケープのすそを引き上げて、悠然と挨拶をしてみせた。

「お久しぶりね、アステリア。貴方の主観時間では721万5百15秒ぶりかしら」

「おかげさまで、まだ元気にしてるわよ」

少女はノエレッテを睨みつけたまま、口元をゆがめて応える。ノエレッテはそれを受けて、楽しそうに微笑んだ。

「そうそうその調子よ。でなくちゃ私も《ゲーム》を仕掛けた甲斐がないもの――それにしても、貴方の時間軸内での軌跡はもつれ合い繰り込まれて、まるでひとつのタペストリみたい。ただの人間がここまで面白い模様を描くなんて思っても見なかった」

「――その経緯を編み出したのは貴方でしょう。私はそれと気づかず、貴方との契約にサインしてしまった。うかつだったわ」

《ゲーム》。それはアステリアがノエレッテに掛けられた呪い。「永遠の命」を望んだアステリアに与えられた代償。無限にループする時間の中で、最適手順を発見し、それをクリアしていかなければ抜け出せない時の迷宮。

「そうね。我ながらステキな思い付きだったわ」

ふふふ、私ってなんて芸術のセンスがあるのかしら、と、自画自賛しながらノエレッテは身をくねくねさせる。内心の憤怒を押し殺して、アステリアは問うた。

「そんなことはどうでもいいわ。私たちを閉鎖空間に追い込んでどうするつもりなの?」

当然のようにノエレッテは応えた。

「もちろん、バトルロワイヤルよ。みなさん拳で決着をつけたがっていたみたいだし、せっかくだから私が舞台を用意して差し上げたわけ。あなたも付き合ってもらうわよ」

「なんでそんなことに付き合わなきゃならないのよ!」

アステリアの憤怒が噴き出す。自分には《ゲーム》という絶対課題があるのだ。こんなランダムイベントで足止めを喰らっている暇はない。そう主張しようとした矢先、ノエレッテが思わせぶりに吐いた一言が、アステリアを沈黙させた。

「これが《ゲーム》のイベントだとしても?」

「――!」

《ゲーム》。それは絶対命題。アステリアの実存を掛けた戦い。それのイベントであるならば、回避はできない。その心胆を見抜いたかのように、ノエレッテは畳み掛ける。

「勝ち抜いて御覧なさいアステリア。無事に勝ち抜けたら、今後3分岐の重要なヒントを教えてあげるわ」

「――負けたらどうなるの?」

「いつもの通りよ。巻き戻るだけ。ランダムにね。問題ないでしょう? そこまでの分岐の最適手順は覚えているんだから」

いくばくかの沈黙。アステリアは静かに応諾した。

「――判ったわ。その話、乗ってやろうじゃないの」

それを聞いて、精霊が慌てる。

「冗談じゃないのです。このままだと勝てる見込みは万にひとつもないのです」

だがアステリアは力強く応える。

「その万にひとつも、1万回繰り返せば突破できる。わたしたちはそうするしかないのよ」

「あうあう――わかりましたなのです」

精霊はアステリアの気迫に押されて頷く。そのやりとりを見ていたノエレッテが、会心の笑みを浮かべていった。

「なら決まりね。せいぜい頑張ってらっしゃい。また、時のどこかで会いましょう」

そして、その笑みを最後にして、空間へと溶け込んでいく。

アステリアと精霊は互いに見つめあい、頷くと、戦いの場へと足を踏み入れていった。