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2009-01-11

次期皇帝が決まらず、皇帝空位の状態でリクシャマー帝国において二つの事件が勃発します。

 一つは隣国、ロズゴール王国の侵攻。

 いち早く国王親政による中央集権化を成し遂げたロズゴール王国は、仇敵であるリクシャマー帝国との国境地帯に向けて兵を動かします。もっとも、記録や書籍によれば本格的にリクシャマー帝国を攻めようというのではなく、国境地帯における水争いにおいてリクシャマー帝国側の農民とロズゴール王国側の住人が揉め事を起こしたので、小競り合いになる前に大げさなぐらいの軍隊を出して両者を無理矢理(もちろんロズゴール王国側に有利な条件で)和解させるのが目的だったようです。しかし、これをロズゴール王国による条約違反の侵攻と見たリクシャマー帝国は上を下への大混乱になります。

 また、その期に乗じてか、以前より家長とその弟の不仲が噂されていた大貴族のオフマン家において、家の実務を預かる弟が家長の一家を暗殺する、という事件が発生します。

 この時、家長の一家が全員死んでいれば、それはそれで不幸なことには違いないのですが、良かったのですが、一人だけ次男が生き残ってしまいます。

 彼は瀕死の重傷でしたが、家来達を使って領内の父親と親交のあった有力者達に檄文を飛ばし、兄の亡き後家長にならんとする弟を討つための軍隊を揃えます。

 しかし、この兄である家長は良く言っても凡庸な人物で、特にカリスマがあった人間でもなく、実質上家のことは生前から弟が行っていましたから、例え正義がこの次男にあったとしても兵が集まる道理は無いはずでした。しかし、実際には彼の元には5000を超える兵が集まることになったのです。

 理由としては、弟はオフマン家の領内において既存権益を持つ有力者からその特権を取り上げ、取り上げた利益をオフマン家で管理・運営することによって資産の有効活用を行うことを兄の生前から強く主張していたからです。もし弟がそのまま兄の後を継いで家長になった日には有力者達は既存権益を失ってしまいます。

 そこで、それを阻止するために次男の下に兵が集まった、というわけです。

 対する弟も次男の兵に対抗すべく兵を集め、また他の領主達にも援軍を求めます。リクシャマー帝国は内乱の危機を迎えたのです。そして、それらを治めるためには一刻も早い皇帝の即位が必要でした。

 ……と、ここまで考えてみました。

 さて、小説の続きです。


7.行動原理/Ⅲ

 あまり高級ではないアパートの玄関を開けて出てきたのは、少し疲れた顔をした中年女性だった。

「こちらが話をしていた旦那とお嬢さんだ」

 『情報屋』がその女性に言うと、女性は無言のまま、しかし品の良い笑顔で頷いた。

「さぁ、どうぞ、お二人とも。汚い場所ですがね、安全については保証済みです」

 そう言って『情報屋』は私達を室内へと招き入れた。

 アパートのその室内は家具こそ少なく高価な物は無かったが、非常に小奇麗な場所だった。

「念のために、このアパートの住人についても調べて見ましたが、闇金とか街金から金を摘んでいる連中はいませんでした。まぁ、余分な金を持っている奴もいませんでしたがね」

「そういうことまで分かるものなのか?」

 私の質問に「蛇の道は蛇でさぁ」と『情報屋』は答えた。多分、信頼しても良いだろう。

「しかし、どういう関係なんだ、彼女。どう観ても一般人だが?」

 私が聞くと、『情報屋』は恥ずかしそうに顔を背けながら、そっと小指を立てて見せた。

「意外だな」

「そう言わないでくださいや」

 そう言って『情報屋』は照れくさそうに頭を掻いた。

「いや、お前ならもう少し派手な若い女でも愛人にしているんだと思っていた」

「この歳になるとね、そういう女じゃなくて、傍にいると心が安らぐ人間が恋しくなるんですよ。人の気持ちが分かってくれる優しい女、というか……少し古い流行り言葉で言えば『癒し系』ですかね」

 ……そういうものなのだろうか?

 私は、自分の言葉に照れて頭を掻き続ける『情報屋』に「まぁ、良い。ところで百合池の組の件だが……」と話を切り出した。

「はぁ、その件なんですがね……」

「百合池の組とは手打ちになるそうだな」私は『情報屋』の台詞を先取りして言った。「残念だ。対立関係にでもなってくれれば、立ち回り方によっては武器や人手を調達できると思ったのにな……」

「知ってたんですか」

「藤遠に教えてもらった」

 私はそう言って、煙草を咥えようとしたが、「旦那、この部屋は禁煙でして」とすまなそうに『情報屋』が言ってきた。

「あの女が嫌がるからか?」

 私が聞くと、「へぇ」とはにかむようにして『情報屋』は言った。それは今までにない彼の表情だった。

 女の方を見ると、彼女は炬燵に遠慮がちに足を入れながら不安な表情で小さくなっている少女に「哀しいことがあったのね」と話しかけていた。

「でも、もう心配しないで。大丈夫だから」

 その優しい表情で語りかける言葉に安心したのか、少女は警戒していたような表情を解いた。そして、それを傍から聞いていた私は、また過去の思い出を、封印した筈の記憶の井戸から自分でも意識しないうちに汲み上げる。

 複数人の年長者相手の喧嘩をして公園で倒れていた少年時代の幼い私、それを見つけてくれたあの少女は私を自分の家まで連れて行き、怪我を治療してくれながら今の彼女と同じ言葉を口にしたのだ。

 思えば、少年時代の私は無口な人間だった。なのに、彼女の前では、例えそれが減らず口であったにしろ思ったことを口に出来た。そして、彼女はいつも笑いながら、そう、あの無理に作った笑顔で私の話を聞いてくれた。

『お姉ちゃんはどうして、そんな顔で笑うの?』

 ある日私は聞いた。彼女は暫く考えたような顔をしてから、『どうしてかなぁ?』とやはり同じような顔で笑った。思えば、それが最期の会話だった。

 翌日の公園、やっぱり喧嘩で傷だらけになった私の元に彼女は現れなかった。陽が傾き、夕焼け空の茜色が星空の青黒い色に変わっても、彼女は姿を現さなかった。私は不安になり、気がつけば、一度だけ上げてもらった彼女の家、小さなアパートの一室へと走っていた。途中で何度も息が切れそうになったのを覚えている。けれど、一度心の中で膨張した不安は、私が足を休めるのを許さなかった。そして……彼女のアパートの前に止まるパトカーと救急車、そして彼女の部屋の前の人垣を私は見てしまった。

『無理心中ですって……』

『あそこの家、お父さんがまともに働いていなかったみたいですしねぇ。かなりの借金を作っていたらしいですよ』

『だからと言って娘さんまで……』

 私の頭はもうまともに働いていなかった。私は人垣を押しのけ、立ち入り禁止のテープを破って室内に入ろうとしていた。それを見て、警官が私を止めようとしたが、私は暴れて警官を振りほどこうとした。

『離せ!、離せよ!』

 しかし、所詮は子供の力だった。私は事件現場から連れ出され、その直後に3つの担架が部屋から運び出された。

 私は担架の中身を見たわけではなかった。けれど、分かってしまった、そのうち最期に運び出された担架にかけられた白いシーツの中身が誰なのかを……

『何でも、借金の返済の足しに、親父さん、娘さんに"売り"をやらせていたらしいですよ』

 私の背後で誰かが言った。その言葉が意味することが何なのかは、私にも分かる事だった。気がつけば、私は振り返り、その大人に殴りかかっていた。

 その後、どうなったのだろうか?

 気がつけば私は仰向けにアスファルトの地面の上に倒れていて、冷たく蒼く光る月の光が私を照らしていた。

 私はフラフラと立ち上がると、あの公園に戻った。そして、二人でよく話をしたブランコに腰掛けた。

 哀しかった……現実を認めたくなかった……胸にポッカリと穴が開いたみたいだった……なのに、涙は流れなかった。

 私はただ乱暴にブランコを漕ぎながら、呟き続けた。

「やっぱり世の中には奪う奴と奪われる奴しかいないんじゃないか。与えて助ける側なんて、自分の間抜けさを勘違いして背伸びしているだけの奴じゃないか」

 きっとあの時の私は自分に言い聞かせていたのだと思う。

 現実を認めるために……少女の面影を時分の記憶から消すために……そして、泣き出さないために

 月の光に照らされて、私はいつまでもブランコを漕ぎ続けていた。

「……旦那?」

 『情報屋』の声に私は我に返り、とうとう、思い出してしまったか、と溜息を吐いて、過去の記憶を述懐する。

 あの後の私の人生はお定まりのコースだった。もともと乱暴だった性格はさらに乱暴になり、歳をとり腕力が強くなって体力がつくにつれ、行動は日に日に凶暴になっていった。その凶行を恐れて、『狂犬』と誰かが呼ぶようになり、気がつけば私は町を牛耳る暴力団から誘いを受けていた。私は拒まなかった。そして、『御曹司』と出会い、迷わず『始末者』という名前の『人殺し』になっていた。

 今思い起こせば、あの時、「任務」で殺していたのは……ナイフで突き刺し、銃の引き金を引いていた相手はきっと自分自身だったのだろう。自分自身の残った良心と、あの時少女の言葉に揺り動かされた自身の感情だったのだろう。

 けれど、結局、私には殺しきれなかった……何度殺しても、それは蘇ったから。何度汚しても、それは立ち上がることを、存在することを止めなかったから……だから

「旦那?どうしたんですかい?」

「いや、何でもない」私は言った。「それより武器の調達と人員の調達の問題だ。まさか、拳銃一丁とナイフ一本で立ち向かえるはずもない……」

「そんな事ができるのはアクション映画か漫画の主人公だけでさぁ」

 『情報屋』は言ったが、その通りだ。私の『再生者』としての能力も、アクション映画か漫画の主人公みたいなものだが、それでも、まがりなりにも、常に腕利きかつ多数の護衛に守られた広域暴力団の組長を確実に殺るには不十分だ。

「人員は無理でも武器ぐらいは調達したいものだが……どうしたものだろうな?」

 考え込む私に、「それなら……」と『情報屋』は何かを提案しようとしてきたが、「待て」と私はそれを制止した。『探索者』としての私の能力が、ある気配を察知したからだ。それはあの『誘導者』の少女の気配だった。

 その気配は、私達のいるアパートの近くまで来て動きを止めた。私の場所が分かっているのに、接触するのを躊躇っているようにも感じられた。

「旦那、さっきからどうしたんですかい?」

「あぁ、その前に少し解決しなければならない問題があるようだ。少し出かけてくる。戻ってきてから、お前の提案については聞かせてもらう」

 私はそう言うと、『情報屋』から踵を返してアパートを出た。

 アパートから少し歩くと、そこに少女はいた。

「こんばんわ」呆気にとられるぐらいに当たり前の返事を、当たり前の口調で少女はしてきた。「良かった。気付いてはくれると思ってましたが、無視されるんじゃないかと不安だったんです」

「……よく、ここが分かったな」

 私は言った。私の感知する限りでは彼女は『探索者』ではない。その彼女がどうして私の場所に気付いたのだろう?。

「今はこういう便利なものがありますから」

 そう言って少女は携帯電話をジャケットのポケットから取り出してみせた。

 なるほど、他の『探索者』に私の位置を調べさせたらしい。世の中、つくづく便利になったものだ。

「それで、何の用だ?」

「幾つか確認させてもらいたいと思いまして……宜しいでしょうか?」

 彼女の口調はあくまで穏やかだったが、その声音に少し強張ったものがあることに私は気付いた。つまりは、回答次第ではあまり穏やかじゃない結末もありえる質問だということだろう。

「一つ目の質問です、やっぱり考え直して今すぐに私について来てくれる気はありませんか?」

「それはできない」

 私は答えたが、彼女は以前のように「なぜ?」と理由を聞いてこなかった。そのことが、私の中で仮定を確信に変えた。

「二つ目です。最近、この街で三つの殺人事件が発生しました。元暴力団の男性の射殺事件、その娘である少女の強盗殺人事件、暴力団幹部の射殺事件です。この事件についてあなたは何か知っていますか?」

「もちろん知っている」

 私は言った。惚けたり、隠し事をしても意味が無いことだ。そして、次に彼女が何を聞きたいのかも私には分かった。

「それで、もしかして君は私がその件に絡んでいるのかを聞きたいのかね?」

「ええ、特にあなたが私と一緒に来てくれない理由がそれなのかをお聞きしたいです」

 暫くの沈黙の後で、「そうだ」と私は答えた。

「私にはすべきことがある。だから君にはついて行けない」

「その『すべきこと』は、『犯罪になること』でしか出来ないんですか?」

「それ以外の方法では難しいだろうな。少なくとも私には思いつかない」

 そして、根拠は無かったが、多分それ以外の方法では失敗するだろうことを私は察していた。「奪う」ことでしか生きてこなかった人間には、「与える」ことも「守る」ことも「奪う」行為でしか行うことはできないのだ。

「何をしたいのか、私に相談してもらえませんか?。一緒に考えれば良い考えが思い浮かぶかも知れません」

 ……相談する、か……それも一つの手かもしれないな

 私は思ったが、結局口から出てきた言葉は「残念だが、断らせてもらう」というものだった。

「これは私の問題だ。部外者の君が首を突っ込む問題じゃない」

「どうして、そうやって他人を信頼しないんですか?」

 そう言って彼女は俯きながら、悲しむような、そして哀れむような口調で言った。

「私は、同じ『再生者』としてあなたを助けたい……ただ、それだけなんです」

「そして、私を助けることで君は、どういう利益を得るんだい?」

 私は意地悪く口元を歪めながら彼女に、嘲るような口調で聞いていた。

 それは考えて言った台詞ではなく、ただ、彼女を見ていて殆ど反射的に口にしてしまった台詞だった。

「そんな、利益とか、そいうのじゃないです」

「ふん、どうだかな」

 私はまた意地の悪い台詞を口にしていたが、気がつけば私の口調は苛だったものに、そして表情は険しいものに変わっていた。気に入らなかったのだ、彼女の言葉も、仕草も……これはまるで……

 私は頭を振り、思い出しそうになった記憶を振り払おうとした。

「私はね、他人から哀れまれたり、余計なお節介を受けるのは嫌いだ」だから言った、もう私のことは相手にしてくれるな、と最後通牒を叩きつけるようにして。「質疑応答の時間は終わりだ。私は帰るよ」

「そういう風にしか生きてこなかったんですね」

 立ち去ろうとしていた私は、その言葉に足を止めた。

 彼女の言葉は、一瞬とはいえ私の心に突き刺さったからだ。

 無論自分でも分かっていた。そうとしか生きてこなかったことも、そうとしか生きられないことも。だが、他人からそれを指摘されることは妙に苛立たされる。

「君に私の何が分かる!?」だからなのか、吐き捨てるように私は言っていた。「『誘導者』が自分の意思を押し付けようとする厄介な連中だというのは本当だな!。君に私の心に触れる権利でもあるというのか!?。小娘が分かったようなことを言うな!」

「気に障ったのだったら謝ります。でも……嫌なんです」伏し目がちになりながら彼女は言った。「『再生者』になることで不幸になる人間を見るのは……特に、貴方は自暴自棄になっているように見えます。それが『再生者』になったことによるものなのか、元からなのかは分かりません。でも、確かなことはそのままでは、多分遅かれ早かれ不幸になる……幸せにはなれないということです。同じ『再生者』としてそんな人、放っておけるわけ無いじゃないですか」

「それこそ余計なお世話だ」

 ペッ、と私は唾を吐き捨てながら言った。

「私はね、この世で一つだけ嫌いな人種がいる。そういう人種が存在していると考えるだけで、虫唾がはしると言ってもいい。それは、『優しい』の意味が理解出来ずに、自分の間抜けさを勘違いして背伸びして他人を助ける馬鹿だ。君は、正しくその馬鹿だよ」

「だったら、あなたは何なんですか?」

 彼女の言葉に、私は顔が引きつるのを覚えた。

「貴方は、どうしてあの娘を助けようとするんですか?」

 私は一瞬だけ絶句した。

 彼女の言う通りだ、もし私の言っている理論が正しいのならば、私こそが一番の馬鹿だ。

「……何だ、本当は全て知っているんじゃないか」

 だが私は話を逸らすために、そう会話を振った。

「えぇ、ごめんなさい。本当は全て分かってます」彼女は、すまなそうにして俯きながら言った。「以前、あなたが『再生者』としての能力を使って、組織的な犯罪を起こした場合、『一族』は『誘導者』ではなく『再殺者』を派遣するという話をしましたよね。今回の件、私が派遣されるのと同時に『一族』は『再殺者』の派遣を決定しました。『再殺者』は、私が貴方との最初の交渉に失敗したという報告を受けてすぐに、あなたが自分達を察知できる圏外から、『共有・共感能力』で繋いだ人間を使って、あなたを監視しているんです」

「……私を監視していた?」

 見えるはずはないというのに、私は思わず辺りを見回した。

「はい、貴方は鋭い方ですから24時間監視することは不可能でした。でも、『探索者』との連携の元に、貴方が一人の少女と行動を共にしている事を掴んだんです」

「……例の暴漢との立ち回りが原因か」

 あの時、私は逃走しながら自分なりに自分達を追う気配を探っていたし、『情報屋』の準備した隠れ家に向かう間も尾行している人間がいないか気をつけていた。自慢ではないが、私は『始末者』だった時から、人の気配を察知することに関しては誰にも引けをとらない自信があった。だが、世の中には上には上がいるらしい。

「随分と厭らしい集団だな、君達は」

私はわざと顔をゆがめて言った。

「ごめんなさい。自分でもそう思います。でも、もしあなたがその娘を守るために『犯罪になること』をしようとしているなら、私達が彼女を保護します。それなら、良いでしょう?」

「保護?、具体的にどうしようと言うのだ?」

「例えば、熟練した能力を持つ仲間に護衛についてもらって彼女を追っ手の手がかからない場所まで逃がします。場合によってはどこか外国に逃げてもらう手配をしても構いません。何なら、特例で私達の『一族』の集落に貴方と一緒に……」

 ……外国か、それも良いかも知れないな

 私は思った。どこか外国の彼らの手の届かないところに彼女は行き、そして静かに歳をとり、いつか忘れてしまうのだ。この不幸な出来事のことも、自分が何であったのかも、そして私の事も……。だが、私の口から出たのは「それが解決方法だというのなら、その解決方法は受け入れられないな」という思ったこととは間逆の台詞だった。

「どうしてですか?」

「彼女が逃げなければならない理由も、不幸にならなければならない理由もどこにもないからだ。なのに、一人の権力者が、ただ将来敵になるかもしれない、という可能性としては低い理由だけで彼女の日常を破壊したばかりか、その命を狙おうとしている。君の言う通りにすれば彼女の命は助かるかもしれない。けれど、それは理不尽を受け入れるということだ。その理不尽が私には許せない」

 それは殆どその場で思いついた言葉だった。だが、案外自分の行動原理の説明としては間違えてはいないように思えた。

「でも……」

「交渉は決裂だ。さっさと帰りたまえ」

 私はそう言って彼女を睨みつけた。

 だが、睨みつけた私の顔は彼女にはどう映っていたのだろうか?。少なくとも、現役当時の凄みなどそこには微塵も見られなかったに違いない。何故なら現役当時の私には「何も無い」という意味で迷いが無かったというのに、今の私には迷いが生じていたからだ。本当に彼女の提案を断るべきだったのか……僅かな迷いが私に生じていた。

「仕方ありません。そういたします」

 拍子抜けするぐらいにあっさりと彼女は私の言葉を受け入れた。

「でも、今度会うときは私は貴方にこういった提案をできる立場ではなくなります。私達は敵同士になります。それは分かってもらえますよね」

 酷く哀しそうな顔をして、そんな言葉を残しながら彼女は身を翻して雪の中へと消えて行った。

 その姿を無言のまま目線で追いながら、私は先程のアパートで吸い損ねた煙草に火をつけた。

 どうしたことか、その煙草は酷く不味い味がして、口に苦かった。

 

「旦那、一体どうしたんですかい?」

 アパートの一室に戻った私を、情報屋は心配そうに言った。

「別に心配することじゃない。外に煙草を吸いに行ったようなものだ」

 大嘘も良い所だったが、私は抜け抜けと、そして落ち着いた口調でそう言ってのけた。しかし、実際には少し煙草を吸いに行ったどころの話ではなかった。少なくとも味方ではないが敵でもなかった集団はこれで敵に回り、厄介ごとの種が増えたのだから。

 ……しかし、私が追われる立場になるとはな

 『始末者』としての私は常に追う側の立場だった。それが、今度は『再殺者』と呼ばれる得体の知れない連中に終われる側の立場になり、その『再殺者』の目を潜り抜けて目的を達成しても、今度は組から追われる立場になるのだ。

 鬼ごっこの結末は「死」だ。それは今も昔も変わりが無い。今回違うのは、その結末を迎えるのは私だということだ。

 ……まるで自ら死を願って、それに向かう危険な遊戯だ

 諧謔で私はそう思ったが、その考えは何一つ間違えていない。どちらに転んでも、その結末までの時間が変わるというだけで、私のやろうとしている行為は不幸な結末しか上がりのないゲームなのだ。

 ……さて、どうしたものか?

「そう言えば、考えがあると言っていたな」

 私は、ふと情報屋の先程の言葉を思い出して聞いた。

「はい、武器はともかく人手についてなのですが……一人だけ当てがあります」

「当て、だと?」

 嫌な予感はしたが、他にすべの無い私としては今は耳を傾けるより他に無い。「具体的に誰だ?」と私は情報屋を促した。

「……旦那も一応、よく知っている方です。ただ……」

「ただ、何だ?。勿体ぶるな」

 暫くの沈黙の後、彼はその名前を口にした。

 それは予想外の、思ってもいなかった名前だった。

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