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2008-09-25【導入部】リクシャマー帝国滅亡の日

 強国リクシャマー帝国の滅亡の歴史が始まったのは、皇帝に「忌み子」が産まれたからだった。「忌み子」というのは男子二人による双子のことで、昔ならば後のお家騒動を防ぐために片方は産まれた時に殺し、現在でも片方はすぐに僧院に入れるか養子に出すのが通例である。しかし、皇帝はそれを行わなかった。二人の皇子を分け隔てなく愛して育てたのだ。しかし、それが内乱の火種に、そしてその後の帝国の滅亡へと繋がろうとは誰が予想しただろうか?

 ……てな、導入部までは考えていますが、その後の動きがなかなか上手く思いつきません。

さて、小説の続きです。

4.遭遇

 「旦那……旦那!」

 誰かに揺り動かされ、私は意識を取り戻した。

 随分と長い間、自分自身の意識を失っていた気がする。

「旦那、悪い夢でも見なすったんですかい?。まるで、引き付けでも起こしたみたいに痙攣しているんで吃驚しましたぜ」

 私を起こしてくれたのは『情報屋』だった。

 私は、自分が時間になってもマンションから出てこなかった場合に、この部屋に来るように言っていたのだ。

「無理もないさ、他人の死を体感して来たんだからな」

 私は『情報屋』にそう答えて、自分の体中が冷や汗で濡れているのに気付いて、彼にタオルを探してくるように言った。『情報屋』はすぐにバスルームから、高価そうなバスタオルを探してきた。

「他人の死って……どういうことですかい?」

「百合池に『鉄砲玉』をやらせてやったのさ」私は、『情報屋』から貰ったバスタオルで顔を拭きながら答えた。「奴には勿体無いぐらいの良い死に方だったぞ」

「旦那、ご冗談を……」

「冗談かどうかは、お前の情報網を使って調べたらどうだ?。そろそろ情報が入ってくる頃じゃないのか」

 『情報屋』は慌てて、携帯電話でどこかに電話をかけた。

 私はベットの上で目を閉じ、先程まで百合池の目を通して見ていた出来事を思い出していた。

 ……組長が事務所から出てくるときの護衛の数……百合池が銃を取り出して構えた時、護衛の発砲は組長の指示なしに行われたか?……そして、発砲はどの場所から行われたか?、何人が発砲を行ったか?

 私は、つい先程までそれらを調べるため、百合池の身体を操って、彼を『鉄砲玉』として特攻させたのだった。

 私はベットから立ち上がり、電話機の横に置いてあったメモ帳を一枚破って簡単な事務所の入り口の見取り図を書き、そこに先程百合池の身体を使って調べた情報を書き込んだ。やはり、まだ『御曹司』派の生き残りの復讐を恐れているのだろう、警護は現役時代に私が知っているよりずっと厳重になっていた。だが……

「旦那、百合池は死んだそうです」青い顔をして、『情報屋』が言った。「他の系列の組や、組員には『事故による死亡』と組は発表したようですが、百合池の組の上層部には『御曹司』の仇を討つために自ら『鉄砲玉』になった、という情報が既に伝わっていて、幹部による緊急会議が開かれているそうです」

 私はペンを止め、「状況によっては一波乱あるな」と呟き、メモ帳に自分で書き込んだ情報をもう一度見直した。

「百合池の組の幹部達が報復を決意したとなると、他の組の中にも動き出す組があるかもしれない。そうなると、この警備はさらに厚くなるな」

 私は、メモを丸め、灰皿の上で火をつけた。

 メモの内容は頭の中で記憶しているし、もし警戒が厳重になるのならばこの情報は役に立たなくなる。

「百合池の組で、百合池亡き後キーマンになる人物と、潜在的に現組長の反対派になっている傘下の組について分かるか?」

「へぇ、時間があれば調べられると思います」

「それでは即座に調べてくれ」

 私は言い、『情報屋』が部屋を立ち去った後で、床に猿轡をされて縛られたまま転がされている女の縄を解いて自由にしてやった。

「人殺し!」

 自由になった彼女が最初に、怯えながらも涙混じりに言った言葉がそれだった。

 私は、百合池が座っていた椅子に腰を下ろし、煙草に火をつけながら「その通りだが」と冷静な口調で答えた。

 確かにその通りだった。百合池の件が無くても、私は既に十二分に人殺しだ。

「言ってやる、あんたがあの人を殺したって言ってやる!」

「それは無理だな……」私は答えた。「常識で考えて、死人に殺人は出来ない。それに、その場に居合わせていなかった私がどうやって百合池を殺せるんだ?」

「それは……薬を使って……」

「警察も死体解剖をして薬の有無の調査ぐらいはするだろうな。だが、何も見つからないよ。あれは、そういう薬だ」

 私は煙草の煙を吐き出しながら言った。

「あんたは……あんたはっ!!」

 女はそう言って、ふらつく足取りで私の前まで来ると、彼女なりの渾身の力で私の頬を平手で叩いた。それをかわせないこともなかったが、私は敢えてそれをかわなかった。少なくともそのぐらいのことをする権利は彼女にはあるのだ。

「気が済んだか?」私は言う。「まぁ、やりたいようにするんだな。百合池が殺した人間が蘇って、百合池を殺しました……まともな頭の持ち主なら、誰も信じないだろうよ」

 女は私の足元に泣き崩れた。

 ……私が殺してきた人間にも、このように泣き崩れた人々がいたのだろうか?

 私はふと考えたが、らしくない考えなので止めた。そんな思考は何年も前に停止したはずだった。

 私は泣き崩れる女を後にして、部屋を後にしようとした。だが、私は突然視界がぶれたのを感じて立ち止まった。

「何事も上手くいくというわけではないか……」

 通常の人間以上の身体能力を発揮することが出来るようになっても、死ぬ前に負っていた怪我まで治せるというわけではないようだった。

 私は溜息を吐き、視界が元に戻るのを待ったが、視界が元に戻った瞬間、今度はあの少年と遭遇した時と同じ感覚を感じた。

 ……近くに、何かがいる!?

 私は、室内に戻り、ベランダのドアを開けた。気配は、一つ向こうの繁華街の雑踏の中からだった。

 私は慌てて室内を出てマンションを後にした。

 ……あの少年とは違うようだが?

 繁華街に近づくにつれ、より詳細にその感覚の持ち主について分かるようになっていた。

 ……男じゃないな、女?、それも随分と小柄なようだ

 気がつけば私は走り出していた。なぜ、そうしたかは分からない。だが、私の中の何かがそうするように、私を急かしていた。

 繁華街に到着するには、左程時間は必要ではなかった。

 そして、私の察知した感覚の持ち主を見つけるのにも、それは同様だった。

 ウィンドウショッピングに興じている、二人連れの少女……そのどちらかが、私の感じた感触の持ち主のはずだった。

「君……」

 私は思わず、声をかけていたが、その瞬間にあの少年が言った言葉を思い出していた。

 ……そうそう、僕ら『再生者』には『天敵』がいるから気をつけてね。

 まさか、彼女がそうなのか?、と思った私に二人組みの少女のうちの一人、年長者なのだろう美しい長髪の少女は向き直り、そして言った。

「あなた、『再生者』ですね。私もそうなんです」

 それは、敵意も何も感じさせない緊張感の無い声だった。私は、思わずあっけにとられ、その場に立ち竦んだ。

 ……僕らの天敵は同じ『再生者』なんだ。彼らは僕らについて分かろうともしないで自分の意思を押し付けようとする厄介な連中なのさ。その中でも、特に厄介なのが『誘導者(ガイド)』と呼ばれる連中でねぇ……

「私、『誘導者(ガイド)』の御社 那唯といいまして……」

 ……なんてことだ

 私は思わず笑い出したい気分だった。あれだけ注意しろと言われた『天敵』の前に自分から飛び出してしまうとは、間抜けにも程がある。しかも、『天敵』と聞いて、私は異形の異能力者や一目でそうと分かるタイプの人間を想像していたが、目の前にいる『天敵』は、一見そうとは分からない、言われてもピンと来ない、まだあどけない少女だったのだ。

「君が……」

 私は続ける言葉を見つけようとしたが、なかなか見つけ出すことが出来なかった。ようやく見つけ出した言葉は「『天敵』なのかい?」という言葉だった。

「『天敵』?、どうしてそうなるんですか」少女は怒ったように頬を膨らませて言った。「私の仕事は、新しく『再生者』になった方を『一族』にお連れすることです。感謝されることこそあれ、『天敵』呼ばわりされる筋合いはありません。第一、同じ『再生者』同士なのに、どうして『天敵』呼ばわりされなければならないんですかっ!?」

 まぁ、そうだ。彼女の怒りももっともかもしれない。普通、『天敵』というのは捕食者と非捕食者との関係において成り立つ言葉だ。彼女がやろうとしていることが、本当に言った通りのことだけならば『天敵』という言葉は正確ではないだろう。

「なるほど、『天敵』という言葉は悪かった。謝ろう」

「分かってもらえて嬉しいです」

 そう言って彼女は、本当に嬉しそうな顔をした。

 純真な娘だな、と彼女の笑顔を見ながら私は思い、あの娘も父親や姉とか友達の前ではこんな笑顔を見せたんだろうか?、と私は、未だ行方不明の少女のことを思い出して、そう思った。

「それじゃ、さっそく一緒に行きませんか?」

 そう言って、彼女は私の方に手を差し伸べる。

「行く?。どこへ?」

 私は、彼女の差し出した手を握らずにそう聞いた。

「『一族』の所です。ちょっと、というかかなり遠いですけど、住めば都ですよ」

 ……住めば都?

 その言葉の意味を吟味して、私は苦笑した。つまり、自分と一緒に来て、自分達と一緒に生活しろ、と言っているのだ。今日びの宗教の勧誘だってここまで強引ではないはずだ。

「簡単に言ってくれるね。まず、どこに行くのか、それがどういう場所なのかの説明があっても良いんじゃないか?。それに、もし私が嫌だと言ったら?」

「どうして嫌なんですか?」

 少女が目を丸くして聞いてきたので、「逆に、どうして私を連れて行きたいんだい?」と私は質問で返した。

「それが仕事だからです」彼女はさも当たり前のことのように答えた。「それに、『再生者』が死を体験していない普通の人間の世界にいても良いことなんてありません」

 彼女の言うことにも一理あるのも事実だった。確かに私が、この『普通の人間』達の社会にいても、行き着く先は決してハッピーエンドではないだろう。もっとも、それは私が『普通の人間』だった頃から少しも変わっていないことだったが。

「ここは寒い」

 私は、彼女に言った。

 気がつけば、いつの間にか季節はずれの雪が降り始めていた。

「どこか暖かい場所で、その話をゆっくりと聞きたいものだが、どうかね?」


 私が選んだのは、大通りに面した小さな喫茶店だった。

 別にこの店の馴染みというわけでもなかったが、全く知らない店でも無かった。過去に『仕事』の打ち合わせで、二,三度使ったことがあった。だが、この店を選んだのは、単に偶々にしか過ぎない。

「珈琲をもらおうか」私は、年老いたウエイターに言った。「君達も好きなものを頼むと良い」

「じゃ、バナナパ……」

「千鶴さん!」

 バナナパフェと言おうとした千鶴という少女を、那唯という少女がたしなめ、「私達も同じものをお願いします」と言った。随分と礼儀を弁えているお嬢さんだ、と私は苦笑した。

「それで、お嬢さん方、私の方から質問させてもらおう。『一族』ってのは何なんだい?」

「簡単に言えば、『再生者』が集まって作っている集落です。周りの集落と必要最低限の付き合いはありますが、もちろん地図上には載っていません。場所は、中央アジアのあたりですね」

 那唯という少女がそう答えると、「え、そうなの」の千鶴という少女が目を丸くして、驚いたような口調で言った。

「てっきりチェコスロバキアとかユーゴスラビアみたいな、東欧のあたりだと思ってた」

「……だから、私達は『吸血鬼』のような化け物じゃないんです!。第一、そんな所に集落を作ってたらとっくに見つかってます!」

「うーん、イメージ的にお似合いなんだけどなぁ」

「やめてください、そのイメージ!」

 私はウエイターのもってきた珈琲をすすりながら、「二つ目の質問なんだが」と、果てしなく続きそうな二人の会話を中断させて言った。

「君はどうして私を連れて行こうとするんだい?」

「先程も言った通りです。『再生者』は一度死んだ人間、それも肉体が完全破壊された人間が生前の姿で再生する現象なんです。そんな人間の存在を『社会』が許容すると思いますか?。遅かれ早かれ迫害されるか、さもなければ……」

「身を守るために、『社会』と戦わざるを得なくなる」

 私は、ポケットから煙草を取り出して火をつけながら言った。

「そうです……良いことじゃないでしょう?」

「良いことじゃないね」

 私は、わざと少女の言葉に同意してみることにした。

「そうです。だから、今のうちに私と……」

「だがね、お嬢さん、多かれ少なかれ普通の人間だって、自分の身を守るために『社会』と戦っているのではないのかな?」

 我ながら面白みも何も無い言葉だったが、案の定「それは……」と少女は言葉に詰まった。

 やはりな、と私は確信する。今の言葉は彼女自身の言葉ではなく、彼女が誰かから聞いて教え込まされた言葉なのだろう。だから予想外の回答や質問が来れば困惑する。

「それにね、ここは街だ。私が『再生者』だろうと、例えそれ以上の怪物だろうと、人に紛れて生きていくことは、多少の注意さえすれば、それほど不可能なことではないよ。特に、私のように生前の自分に執着しないのであればね」

 本当は、私は生前の自分に執着している。そんなことは自分でも分かりきっていることだった。だが、今はそう答えておくのが良いように思えたので、そう答えたに過ぎない。

「じゃ、あなたは私について来てくれる気は無いんですね?」

「もし、そうだと言ったら?」

 私はわざと席から立ち上がり、壁にかけてあった外套に手を伸ばして帰る仕草を見せた。

「あなた、自分勝手です!」

 突然、彼女は机を叩き、怒ったような口調で言った。店内の少ない客とウェイターの視線が私達に集中する。

「もし、あなたがどこかで『再生者』としての能力を使ってしまって、『再生者』という存在が表に出てしまったらどうなると思うんですか!?。『再生者』なんて、本当は普通の人間の社会にいてはいけない存在なんです!。だって、誰も私達を受け入れてくれなかった……分かりますか、今まで仲良くしてくれた人達が、蘇ったというだけで私を恐れ、迫害するんですよ!。受け入れてくれたのは、昔話に出てくる怪物としての立場だけ。だから、私達は、『社会』から隔絶されて静かに暮らしていく日常を選択したんです。もう、『社会』から……元いた『社会』から拒絶されたり迫害されたりするのは嫌なんです!。なのに、あなたが自分勝手に行動してその日常が壊れたら……」

 少女は途中から声を詰まらせ、そして最期には泣き出した。

 私は、私の中に多少は残っていた罪悪感がそうさせたのか、外套のポケットからハンカチを出して彼女に差し出した。彼女はハンカチを受け取らなかったが、隣にいた少女がそれを受け取り、少女の涙を拭った。

「それが君の本音か……」私は外套を再び壁に掛け、椅子に座りなおした。「君は『再生者』になったことで、迫害された……そうではないのかね?」

 少女は無言のまま、首を縦に振った。

「だから、私にも同じ目に遭わせない様に、私を連れて行こうとしているわけだな」

 彼女は再び首を縦に振った。

「優しいんだな、君は」私は、冷めかけた珈琲を再び啜って言った。「だが、やはり今は君に同行はできない」

「どうしてなんですか?」

「やらなければならないことがある」

 私は咥えていた煙草を灰皿に押し付けて消しながら言った。

「それなら、私がそれをお手伝いします。その、犯罪にならない程度のことでしたら……」

 私は静かに、少女の目を見つめ、そうしてから随分時間を置いて「犯罪になることだ」と静かな口調で答えた。

「だから君に手伝ってもらうわけにはいかない。これは私が自分で決着をつける問題だ」

「そんな!?、そんなことさせません!。やっぱり今すぐあなたを連れて行きます」

 そういう彼女の目はまっすぐに私を見ていた。

 ……覚えている、こんな真っ直ぐな目をどこかで見たことがある

 一つは、そう、あの舞花という少女の目だ。もう一つは……思い出せない。鮮烈な印象と共に、記憶のどこかに残っている……なのに思い出すことができない。いや、思い出すことを私の記憶の回路が拒んでいる。

「なぜ、なんだ?」

「あなたが『再生者』としての能力を使って、組織的な犯罪を起こした場合、『一族』は『誘導者』ではなく『再殺者(リボーンズ・アサシン)』をよこします。彼は、私のような『誘導者』と違って、問答無用であなたを殺害した上で、あなた自身の死体はもちろん、あなたが存在していた痕跡全てを消します。あなたがどんな人であれ、そんなの、そんな風にされるのを見たくありません」

 彼女は私の独り言を勝手に解釈したらしい。

 だが、おかげで一つだけ分かったことがある。私の結末は、例え蘇ったとしても、あの若い時代の『裏稼業』に就いていた時代に悟っていた結末と変わらないということだった。

「だから、あなたがもし、それをやろうとするのならば、この場で力づくで止めます」

「力づくでね……」

 『再生者』が、常人の何倍もの身体能力を持っていることは、少年から既に聞いていた。また、『誘導者』に選ばれる『再生者』が時に力づくで物事を解決するために、各種の武術に精通していることも同様に聞いている。おそらく、そうは見えないが、彼女もまたそうなのだろう。

「言っておきますが、私、格闘技には自信がありますよ」

 それは、ハッタリではないだろうということは、私にも彼女の身のこなしからある程度予想がついていた。

 私も肉弾戦になった時のために、我流ではあるがある程度格闘技は習得していたが、おそらくまともに戦えば彼女の方に分があるだろう。そう、まともに戦うのならば……

「そのようだね。だが、隣のお嬢さんはどうかな?」

「千鶴さんとは、いつでも『共有・共感現象』が起こせるようになっています。千鶴さんはなるべく荒事に巻き込みたくないとは思っていますが、いざとなったら私が二人になると考えてもらって結構です」

「そういうことを言っているのではないのだがね」

 私はそう言って、テーブルを下からコツコツと叩いた。自分の掌ではなく拳銃で……。

 那唯という少女は、私の言った言葉の意味が分からずキョトンとした顔をしていたが、テーブルの下をそっと覗いた千鶴という少女が「那唯ちゃん……」と震えた声で彼女の服の袖を引っ張った。その時になって、那唯という少女は私の言葉の意味をやっと理解したらしい。

「あなた!」

「そうだよ、私は卑怯者だ」彼女の台詞を先取りして私は言う。「君の隣の千鶴という娘さんは普通の人間のようじゃないか。当たり所が悪ければ弾一発で殺せる。君にしても同様だ。『再生者』が不死身ではないことぐらい、私も既に知っているよ。私はね、生前は簡単に言えば殺し屋だったのでね」

 彼女には私を倒せる幾つもの術があるのだろう。だが、私の術は唯一にして、引き金を一度引くだけで事足りるのだ。

 私は、ジッと彼女を見つめた。彼女は、隣の千鶴という少女を庇おうと構えていたが、私に攻撃してくる気配は無かった。

「今は、私の事は放っておいて貰おうか」

 私は今度こそ本当に立ち上がり、外套を羽織って席を立った。

「それと、君は『社会』は再生者を認めないと言ったが、その横にいるお嬢さんはそうではないようだ。案外、君達は意固地になっているだけではないのかな?」

 少女は何も答えなかった。

 私は、無言のままの彼女達を後にして、喫茶店を出て雑踏に紛れた。

 那唯という少女が後をついてくる気配は無かった。だが……

「それで、いつまで私を尾行してくるつもりかね?」

 私は背後の気配、あの少年に言った。

「あれあれ、やっぱり分かっちゃった?」おどけた様な声が背後から聞こえてくる。「やっぱり気配を消すにしても、このぐらいじゃもう駄目か。随分と『探索者』として進歩したみたいだね」

「もともと、人の気配には敏感でね」私は背後を振り返らず、独り言を呟くようにして言った。「それで何の用だ」

「いやぁ、さっきの『誘導者』とのやりとり、立派だと思ってねぇ。何せ、まだまだ未熟とはいえ『誘導者』をぐうの音も出ないぐらいに相手をやり込めちゃったもんねぇ」

 ……聞いていたのか?

 私は改めて、この少年の能力に戦慄した。あの時、喫茶店の中には彼の気配は無かった。つまりは、完全に気配を消して私や『誘導者』の少女に気付かないように何処かに隠れていたということだ。

「僕らの『天敵』を、ああも打ちのめしてやり込めてくれると、気持ちの良いものがあったよ」

「別にやり込めたわけじゃない」私は背後を振り返り、少年に向き直って言った。「まだ、やることがあるのは本当だ」

「あぁ、あの暴力団事務所の前の一件とか?」

「……」

 私は絶句した。あの事件の発生からそれほど時間が経ったわけではなく、まだ『情報屋』ですら完全に把握しているわけではない情報をこの少年はなぜ知っているのだ?……

 私は自分の顔が自然に強張っていくのを感じた。

「怖い顔しないでよ。僕はあのお嬢ちゃん達と違って君の味方だよ。僕にしてみれば、あぁいう大きな事件を起こしてくれるとありがたいんだよね、実際」

 ……何を企んでいるんだ?

 私は、自分の額を伝う冷や汗に気付いた。

 私は、この少年に協力してもらう代わりにとんでもないことに手を貸しているのかもしれなかった。

「だから怖い顔しないでってば。僕は君のやることが『犯罪になること』でも協力してあげるつもりなんだからさ。僕のことを信頼してドンドン頼ってよ」

 私は、暫く黙った後に、それでも良いか、と開き直ることにした。

 私の起こす行動で他人がどうなろうと知ったことではない。巻き込まれる奴は巻き込まれるし、死ぬ奴は死ぬ……ただ、それだけのことだ。そして、それは私自身も例外ではない。つまりはそういうことだ。

「あの薬をもう少し都合してもらえるか?」

 私は少年に頼み込んでいた。今後、どんな行動をとるにしてもあの薬は多めに持っていて損は無い。

「良いよ。まずはこれだけね」

 そういって、少年は薬局で薬を入れるときに使う白い袋をポケットから取り出して、私に渡した。

「足りなかったら、また次回会うときにもう少し用意してくるよ」

「いや、これだけあれば十分だ」

 私は外套のポケットに袋を突っ込んで答えた。

「そうなんだ。まぁ、老婆心ながら一つ注意しておくと、二人以上の人間に『共有・共感現象』による『接続』はやらないことだね。その薬を使えば二人の人間と『接続』することは可能だけど、それ以上の人間と『接続』した場合は下手すれば君自身が精神崩壊しちゃうからね」

「ご忠告、感謝するよ」

 私はそう言って少年から離れた。途中で一度振り向くと、少年は私の方に無邪気に軽く手を振っていた。

 雪は相変わらず降り続いていた。明日にはきっと積もるのだろう、と考えたその瞬間に外套のポケットに入れていた携帯が鳴った。

「旦那……」電話は『情報屋』からだった「『御曹司』のお嬢さんのことなんですがね」

「御曹司の娘がどうした?」

 私は、頭の中で『情報屋』に話しかけた。携帯電話を通して、自分に起きた出来事に驚愕して狼狽する『情報屋』の様子が伝わってきた。

「言っただろう、お前の見るもの聞くもの触るものは私のものだ、と……だから、こういう芸当も出来る」

「はぁ……」

 『情報屋』は私の言葉に納得していないようだったが、別に納得してもらう必要などない。ただ、そういうことも出来るということさえ覚えていてもらえばそれで事足りるのだから。

「今のところ、一番安全な通信手段だ。それで、御曹司の娘がどうした?」

「はい、御曹司のお嬢さんを発見いたしましたので、身柄を確保してあります」

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