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2007-02-03【再生者.21】 このエントリーを含むブックマーク このエントリーのブックマークコメント

キスタ地方は草の民を通しての北方帝国東方オアシス国家亜大陸等との貿易の窓口です。

当然、この地域を治めるということは莫大な利益を手にすることができることを意味します。

そのため、この地方を巡ってリクシャマー帝国ロズゴール王国等による戦いが繰り広げられました。その度、この地方の所有国は変わってきたわけですが、あまりにその戦いで血が流れすぎたためか、結局妥協案として

・土地の所属は北はリクシャマー帝国、南はロズゴール王国のものとする。

・ただし、両地域を実際に管理・運営するのは各国の選挙によって選ばれた【バキスタ卿】が行うものとする。

・【バキスタ卿】の任期は終身とする。

・バキスタ地方には各国ともに兵を進めてはいけない。尚、他国からの侵略があった場合、条約参加国(当初は12カ国)の2/3の同意があった場合連合軍という形で軍隊を進めても良い。

・【バキスタ卿】はバキスタ防衛のために独自の軍を持っても良い

……etc

といった取り決めが行われました。

当初はこの取り決めの通りに運用が行われ、様々な国から(変わったところではウィリア騎士団から選ばれたこともあります)【バキスタ卿】が選ばれました。しかし、やがて海洋貿易が盛んになってきてバキスタの重要性が低くなってくると、ロズゴール王国の南バキスタ地方の土地所有権のリクシャマー帝国への売却に伴い、殆どリクシャマー帝国皇帝が【バキスタ卿】を兼任することになります。

特に、【第二次建国戦争】により北方帝国が各国から独立国として認められ、草の民を通さないで直接貿易が行われるようになったことは決定的で、【バキスタ卿】という地位はバキスタ地方の零落とともに名前だけのものになってしまいます。


それはさておき、「蛇たちの饗宴」最終回です。

長らく、ゆらぎとは微塵の関係もないお話にお付き合いいただきありがとうございます。


21(or epilogue). --(chizuru's sight)

 結局、あたしは那唯ちゃんに「言いたかったこと」を伝えることが出来なかった。

 老人の言ったとおり、那唯ちゃんは2日間ずっと眠りっぱなしだった。そして、3日目、何か糸が切れるような感覚に目を覚ましたあたしが目にしたものは、もぬけの殻になった那唯ちゃんの眠っていた布団と、ちゃぶ台の上に置かれた手紙だった。

 手紙には、那唯ちゃんが寝ている間にあたしが面倒を見てくれたことや今回の件に協力してくれた件に対するお礼と、あたしを今回の件に巻き込んでしまったに対する謝罪、そしてあたしに出会えて嬉しかったこと、「一族」の元に帰らなければならないので直接これらを口に出来ないことを残念に思う旨が書かれていた。

 時計の針は、まだ6時を指していなかった。駅までスクーターを走らせれば始発電車に十分間に合う時間だったが、迂闊にもスクーター病院に置きっぱなしだ。

「あぁ、もう、悩んでる場合じゃないって!」

 あたしは、使い古しのスニーカーを履くと駅目指して走り出した。当然、普段の運動不足がたたってすぐに息が切れ始めたが、そんなことでへばっている場合じゃなかった。

 例え足が千切れても、今は走らなければ成らない時だ。でないと、絶対にあたしは後悔するだろう。そんな後悔は嫌だ。

 けれど努力空しく、あたしが駅に着いた時、丁度始発電車が出発した所だった。

「そんな…」

 それでも、一縷の望みを繋いであたしはホームへ向かったが、そこに彼女の姿は無かった。

「……そんなのつれないよ」無人のホームに一人ぽつんと立ち竦んだまま、あたしは呟いた。「お礼ぐらい言わせてくれても良いじゃない」

 何故だろう、ふと、あたしの頬を涙が伝った。

 ……あぁ、那唯も良い友達を持つことが出来ましたね。

 あの晩、老人が口にした言葉が脳裏を過ぎる。

「そうだよ、あたし達友達だよ。なのに、こんな別れ方ってないよ。『さよなら』ぐらい言ってくれても良かったじゃない」

 あたしは、遠ざかって、朝霧の中で陰になっていく電車に向かって言った。当然のことながら返答はない。

「今度会ったら、その時はちゃんとお礼ぐらいさせてよ!。絶対に恩は返させてよ!」

 もう、電車朝霧に隠れて陰すら見えない。それでもあたしは、電車の方向に向かって手を振りながら叫んだ。そうせずにはいられなかった。

 やがて、ホームに朝日差し込み、街に朝が訪れるまであたしはその場に立ち竦んでいた。

 

 

 あたしが職場に復帰したのはその翌日だった。

 店長履歴書の名前欄を書き換えて『千鶴』を『ちづる』にして、別人ということにして本部に登録したらしい。

 履歴書をいじるって、単にそういうことかい?、とあたしは呆れたが、まぁ、あの社長も暫くはこの店の視察には来ないだろうから結果オーライという所だろう。

 それからさらに一週間して「ワラちゃん」が復帰してきた。

 首の傷跡はまだ消えていないので彼女は首に包帯を巻いていたが、それも喫茶店制服を着ればすっかり隠れる程度だった。

 こうして、あたしの日常は再開し、1ヶ月、2ヶ月と経つうちにあの事件のことも少しづつ記憶から薄れていった。

 そして、さらに何ヶ月かが経過し、寒かった冬も終わり、街にもようやく春の兆しが見え始めた頃のことだった。

 その日は休日で、あたしがちゃぶ台に頬杖を付きながら面白くも無いテレビ番組暇つぶしに見ていると、突然玄関のチャイムが鳴った。

「はいはい、新聞だったら要りませんよ。宗教なら尚更ねー」

 そう言いながら開けたドアの先に立っていた人物を見て、あたしは思わず驚きのあまりに目を見開いて声を失った。旅行バックを下げ、この季節には少し早い春物のワンピースの上から白いジャケット羽織った姿の少女。それは……

「な、那唯ちゃん?」

千鶴さん、お久しぶりです」

 そういうと、那唯ちゃんはにっこりとあたしに微笑みかけた。

 「今、春が来て、君は綺麗になった」と歌ったのが誰だったかは忘れたが、那唯ちゃんはあの時と寸分変わらないはずなのに、ずっと可愛くなった気がした。

お久しぶりって、えっと、その……」

 何から話して良いのか分からず、あたしは思わず口ごもった。

 そんな、あたしに「お土産と言ってはなんですが」と那唯ちゃんは話を切り出した。

「ちょっと目を瞑ってもらえますか」

「え、えぇ?……うん」

 あたしは言われるままに目を閉じてしまった。

 後から思うと、あの時一瞬だけ那唯ちゃんの息を間近で感じたような気がしたのだ。

 だが、それに気付いていたとしても手遅れだったろう。ぷすっ、と何かが首筋に突き刺さったような感覚を感じた瞬間、「うぎゃああああ!」とあたしは激痛に悲鳴をあげていた。

「な、那唯ちゃん、今の、まさか?」

 首筋を押さえながら顔を青くして言うあたしに、「えへへ」と悪戯っぽく那唯ちゃんはチロッと舌を出し、「実は手伝って欲しい仕事がありまして」と言ってきた。

「また、この付近に『再生者』が産まれたらしいんです。自棄になって、また前回みたいなことをしでかす前に『一族』に回収するのが今回のお仕事でして」

「じょ、冗談じゃ…」

 前回の件で怖い目に遭ったことを思い出して断ろうとするあたしだったが、那唯ちゃんは「だって千鶴さんホームで言ってたじゃないですか『この恩は絶対に返させてよ』って…」と言って言葉を封じた。

 ……えーと、それはつまり

「でびるいやーは地獄耳?」

「じゃなくって、あの時、私まだホームに居たんですよ。ちょっとお手洗いに行っていたもので」

 つまり、あの時言った言葉は全部筒抜けだったのだ。

 あたしは恥ずかしさのあまりに顔を真っ赤にした。

「そういうわけで、また暫くお願いします」

「で、でも、もうあたしの体には血清が出来ちゃったわけだから、さっきのも……」

「あ、血清の件だったら大丈夫です。血清は永遠に体内に残るわけじゃないんですよ。一月か二月もすると消えるんだそうです」

 「は、はぁ…」と顔を引きつらせるあたしは、今になってようやく気付いた。最悪は終わってなんていなくて、あの事件は単なる始まりにしか過ぎなかったことを、そしてこの那唯という少女の性格について少しも分かっちゃいなかったことを……

「さぁ、千鶴さん、でかけましょう。この時間に家にいるということは、お暇なんでしょう?」

 そう言ってあたしをアパートから外へ連れ出す那唯ちゃん。「か、勘弁してよー」と言いながらも、まんざらでもない事に気付いて愕然とするあたし。

 春の訪れを予感させるほんの少しうららかな日差しの中で、物語はまだ始まったばかりだった。(完)

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