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2009-07-14蛇たちの饗宴2 8章 このエントリーを含むブックマーク このエントリーのブックマークコメント

久々の更新になります。

しかしながらゆらぎネタ思いつきません。

また思いついたら書きます。

それとは別に小説の続きです。


8.夜の先にあるもの

 凡そ生活観の感じられない殺風景な、壁紙一つ無く薄暗い部屋の真ん中に彼女はいた。

 天井に空ろな瞳を向けたまま、酷く痩せた腕で膝小僧を抱くようにして彼女は蹲っていて、私達に気付いて向けられた彼女のその瞳はまるで泥のように澱んでいて、そして虚ろだった。

「……驚いた」

 彼女を見て私は思わず口にした。なぜなら、彼女こそは……

「生きていたんだな、唯卯樹 菜恵(ゆうき なえ)」

 唯卯樹 菜恵、それが彼女の名前だ。

 私の知る限り彼女は『始末者』最高の狙撃主にして、組、いやあるいはこの地方では史上最大の凶状持ち。

 私に『始末者』としての心得を教えてくれた女。

 そして女だてらに「凶蛇」の二つ名を欲しいままにし、敵対する組との抗争の際実弟を殺されて、組の命令のないまま相手の大物幹部を次々に暗殺していった彼女の最期は仲間の『始末者』に追い詰められて、秘密裏に処理されたと聞いていたが……

「君にまた会えるとは思わなかった」

 私はそう声をかけたが、彼女はまた無言のまま天井に視線を戻した。

 元々無口で無愛想な彼女だったが、少なくとも私の知る彼女は他人に声をかけられて返事をしないほどには無口でも無愛想でもなかったはずだ。だというのに……

「おい、彼女……」

 私はあることに気付いて情報屋の方を向いた。「へぇ、酷い中毒でして」と情報屋は首を縦に振って答える。

 見ると、彼女の足元には使ってからそれほど時間が経っていないのだろう、真新しい注射器が転がっていた。

「なんだってまた、薬物中毒なんかに?。俺の知っている彼女は薬の類を嫌っていたはずだが」

 薬は腕を鈍らせるし、とっさのことに対処ができなくなる、というのが彼女から聞いた理由だった。それに薬は、末端価格ではないにせよ、自分達の手元に届くまでにはかなりの中間搾取がされている、搾取の無い社会なんてものは無く、搾取の存在自体から目を背けて否定するか搾取を肯定するかのどちらかの社会しかないが、できれば搾取はされたくない、とも言っていた。いずれにせよ、その話を聞いて、彼女らしい理由だと私は思ったものだったが……

「なったのではなくて、されたんですよ」

 情報屋の言葉に、「どういうことだ?」と私が聞くと、「組長の指示でね」と情報屋は答えた。

「この場から逃げ出したりしないように薬漬けにされたんでさぁ。実際、最初は普通に監禁されていたんですがね、監視を殺して逃げようとしたもんで」

 さすがは「凶蛇」だ、と私は舌を巻いた。いつまでも捕らわれたままでいるつもりはないらしく、そうなっても執拗に逃げるチャンスを常に狙う。

「しかし、どうして組長もそんな危険な女を始末しようとしなかったんだ?」

「危険だからでさぁ」と情報屋は答えた。「危険だから何かの役に立つ。危険物を持っているという事実と情報が武器になる。そう考えたからこそ今まで生かされてきたんですよ」

 そういうものなのだろうか?、と私は考えたが、まぁ、権力者の考えなど、いつだって私の慮外だ。

「それで、彼女を利用するということだが。そもそもここから連れ出せるのか?」

 私は外に付いている監視に聞こえないように、頭の中で情報屋に語りかけた。

 部屋には明り取りのための、小さな窓が一つあるきりだ。しかもこの場所、古い雑居ビルの一室に来るまで、気付いただけでも6人以上の人間が監視についていた。その監視の中、私は情報屋に言われて渡されたジャケットのフードを深く被ったまま、彼とここに通されたのだ。

「監視には金を握らせます。しかし、もし監視が言うことを聞かない場合は……」

「力づくか」私は口元を緩ませた。「お前も暫くの間に随分と香ばしい性格になったな」

「旦那の影響でさ」肩を竦ませて情報屋は言った。「今更自分は無関係です、なんて通用しやせんからね。毒を喰らわば皿まで……場合によっては机まで食わにゃ、嘘ってもんでさ」

「それで腕のほうは大丈夫なのか?。折角助け出しても、肝心の腕の方が鈍っていては話にならん」

 私がそう言うと、情報屋は床に転がっていた皹の入った皿を明後日のほうへと投げてみせた。

 すると次の瞬間には、フリスビーのように宙を舞っていた皿が砕けて散り、注射器が壁に突き刺さっていた。

「パーフェクトだよ」私は、思わず感嘆の声をあげていた。「さぁ、そうなると次は武器だが……」

 これは私に一縷の望みがあった。その人物に頼るということに不安が無かったわけではなかったが……

 

 

 「武器?あぁ、あるよ。ただし、AKとかトカレフとか、ドラグノフだけど、良い?」

 それから数時間後、私は気配を手繰って見つけ出した少年の居場所、数年前に客の入りが悪くて潰れたデパートの屋上にいた。

 そして、その寒風吹きすさぶ屋上で私はと言えば、少年のその口調のあまりのこともなげさに、呆気にとられて立ち竦んでいたのだった。

「どうしたの?。USモデルの方が良かった?」

「いや、あまりにあっさりと言うのでね」

 一体、この少年は何者なのだろう?と私は改めて思った。

「オーギュスト、ストックの中から幾つか見繕ってあげてよ。そうだねぇ、多分銃弾が共通した拳銃とサブ・マシンガン、あとなるべく威力のあるスナイパーライフルが良いんじゃないのかな?」

 少年がそういうと、何時の間にか私の背後に立っていた背の高い青年が黙って私に大きな紙袋を渡してきた。紙袋は見た目以上にずっしりと重く、その中に何が入っているのか覗かなくても察することが出来た。

 銃弾も一緒に入れてあるよ、と一見無邪気に見える笑みを浮かべながら少年は言った。その笑みが、何故か私には薄ら寒いものを感じさせた。この少年は、私がやろうとしている事についてどこまで察知しているのだろう……そして、本当に味方だと信じていいのだろうか?。今更ながら私は考える。

「あと何か必要なものはある?」

「それと、『共有・共感現象』についてなんだが……あれは本当に二人以上の人間と『接続』したまま自分の意識を保つことはできないのか?」

「出来るよ」難しいと思っていたことに対して、あっけなく少年は答えた。「でも、そのためにはある程度の修練が必要だけどね。今の君だったら二人と『接続』したら意識が飛んじゃうでしょ。それが普通だよ。あぁ、でもこの前『姫君』は修練無しに二人の人間と『接続』して大立ち回りを演じたんだっけ」

「そうですね」

 と私の背後の青年が静かな口調で答えた。

「それでも危険だよ。一歩間違えたら精神が破壊される可能性もあるからねぇ。何にせよ、次の行動を起こすのは今の『接続者』との『接続』が切れてからにした方が良いんじゃない」

「忠告、痛み入るよ。だが……」

 だが、そうは言ったものの、私には既にして時間が無かったのも事実だった。

 結局、私は唯卯樹 菜恵を助け出すのに大立ち回りを演じてしまっていたのだ。私が犯罪になることをするのならば『再殺者』と呼ばれる者達が動く、とあの少女は言っていた。それが本当ならば、『再殺者』は既に動いて私を包囲にかかっているはずだ。それに、そうでなくても幽閉していた唯卯樹 菜恵が脱走したことは遅かれ早かれ組の知る所になるだろう。連絡を遅れさせるために、私は監視を全て始末したが、それだって交代要員が来ればすぐに知られることだ。

 ……せいぜい長くて今晩いっぱい

 それが私の推測した残り時間だった。

「『誘導者』の件だったら心配しなくて良いよ」そんな私の考えを半分だけ読んだのか、少年は口元を緩めて言った。「この建物に入った瞬間から、相手の『探索者』から君の姿は補足出来なくなっているはずだからね。この建物にはそういう仕掛けがしてあるんだ。僕も彼らに見つかると色々と厄介だからね」

 「用心深いことだ」と口では言いながら、そんなことが出来るこの少年に私は感嘆していた。私の行動を読んでいたかのような手際の良さといい、この件といい、まるで……

「ばれちゃったかな。そうさ、実は僕は魔法使いさ」

 私の仕草から私が何を言わんとしているのか察しておどけて言ったのだろうその少年の言葉を無視して、「一体、君は私に何を見返りに望んでいるんだ?」と私は聞いた。彼は、自分はボランティア団体みたいなものだ、と言ったが、そんなボランティア団体があるわけがない。テロリスト、さもなければ……

「人の好意は素直に受けようよ。人からそう言われたことは無いの?」

「幸か不幸かないな」

 そう答えたものの、本当は思い出すのが億劫だったのと、嫌だっただけだ。

 彼が何者にしても、私にその後にどのような見返りを要求するにしても、私に武器を供給してくれる、という事実だけが今は大事だった。

「それより、さっき『修練』なしに二人の人間と『接続』したまま大立ち回りを演じた『再生者』がいた、と言ったな?」

「言ったけど、あれは特別であって君がやったら……」

「何分耐えられる?」少年の言葉を遮って俺は聞いた。「私だったら、精神が破壊されるまでに何分耐えられる?」

 私の言葉に少年は一瞬だけ呆気にとられたようだったが、やがて「そうだねぇ……」と首をかしげた仕草をして、しばらく間を置いて「10分」と答えた。

「二人の人間、両方もしくはどちらかに『人形作り』を使って10分が限度だね。ただし、間違いなく君はその後で『壊れる』よ」

「そうか10分か」

 気付けば私は「10分」という言葉を何度も反復していた。

 ……10分……その間に出来るのか?……

 結局考えても埒が明かないことに気付いたのは暫くしてのことだった。確かに確実に事は成したい。だが、手をこまねいて時間が過ぎるのをただ待つわけにもいかない。このまま時間が経過して、組に気付かれて警備状態を普段と変えられてしまえば何の意味も無い。

「ちょっと、ちょっと。もしかして馬鹿なこと考えてない?。折角、折角の二度目の人生は大事に使わなきゃ……」

「君の知ったことではない」

 私は、かってあの少女に言ったように少年にも冷たくそう言っていた。

 きっとその時の私は立場と言うものを弁えていなかったに違いない。少し考えれば、どちらが掌で転がされているのかなどすぐに分かることなのだ。だというのに、少年は私の無作法を咎めようとせず、「OK、分かったよ」とおどけた様に肩を竦めて見せた。

「聞かないよ。君の自由だもんね。僕は君のサポートをするだけだし」

「……」

 少年の言葉に、どう応えていいのか分からず、私は暫し仏頂面のまま立ち竦んだ。

「まぁ、パーティのドレスは揃ったことだし」そう、少年は私の手にした紙袋を指差して言った。「かぼちゃの馬車は必要だよね。魔法使いとしてはそこまで揃えてあげたいところだけど、僕は未熟な魔法使いでね。代わりに車で我慢してよ。ちゃんと、この場所と同じ魔法をかけておくからさ」

 そう私に言ってから「オーギュスト」と例の青年の名前を呼ぶと、彼は「ええ、すぐに用意しましょう」と言って素早く踵を返してその場から消えた。

「ごめんねぇ、ガソリン自動車なんて夢の無いファンタジーで」

「いや、十分だ」

 「じゃあな」と背を向けて立ち去ろうとする私に、「君は……」と少年は唐突に語りかけた。

「君は、夜の先にあるものが果てしない闇だと思うかい?」

「……」

 私は足を止め、一瞬だけ少年の言った言葉の意味と、その問いかけへの答えを考えた。

 だが、私には言葉の意味を理解することも出来なければ、答もまた出すことはできなかった。

 

 オーギュストという青年に手伝ってもらい、ここまで乗り付けてきた車から唯卯樹 菜恵を彼らの用意した車に移すと、私はハンドルを握って車を走らせた。最終的な目的地は決まっていたが、私は思うところがあって寄り道をすることにした。

「聞こえるか?」私は車を止め、現在の『接続者』である情報屋を呼び出す。「成功だ。これで武器と人手の調達ができた」

「そりゃ、よかった」私は、情報屋の安堵の溜息を聞いた気がした。「それで、今どこに?」

「あのアパートの近くの公園だ。今から出てこれるか?」

「へぇ、大丈夫ですが……」

 躊躇う情報屋に「お前に伝える言葉がある」と私は伝えた。

 私は、ポケットの箱から煙草を一本取り出し、車に取り付けられたライターで火を着けて情報屋を待つことにしたが、その時後部座席にいた唯卯樹 菜恵が手を出して煙草を一本要求したので、私は一瞬躊躇ったが、結局煙草を一本分けてやった。

 情報屋が私の車に気付いて、ドアをノックしてきたのは私と彼女の煙草が丁度吸い終わった頃だった。

「やって来たか……」

 そう言って、私はドアガラスを下ろした。だが、それ以上の言葉が止まったのはその背後に小さな人影を見つけてしまったからだった。

「……どうして?」

「ごめん、来ちゃった」

 少女はそう言って、情報屋の前に出てきた。

「危険だと言ったはずだ」

「分かってる。でも、やっぱり言わなきゃならないと思って」

 俯き加減で、私と目線を合わせないようにしながら少女は言った。

「……やっぱり行くんだよね」

「そうだ」

 私は強い口調で言った。

 少女が何を言いたいのかは分かっていたが、けれどそれは叶わないことだというハッキリとした意思を示すかのように。

 けれど、少女が顔を上げて私の眼を見ながら言った言葉は違った。

「私、止めない。あなたのことを止めない」

「……」

「貴方が私を助けてくれて、『奪う』ことでしか私を助けることができないのなら、その罪を私も負うよ。決めたの。気付いたの。私は私が選択したことで、お父さんも姉さんも喪くした。だから私は今更綺麗な手じゃない。あなたがその手をさらに罪に染めるというのなら、それは私も同罪。私、もう怖がらない。だから……」

「もう、良い」

 それ以上の言葉を私は聞きたくなかった。そして少女にここまでの決意をさせてしまった世界と自分自身を呪った。

「やがてこの夜も明ける。そして、夜の先にあるものをその瞳に映した時、全て忘れるんだ。この不幸な出来事も、私のことも……何もかも」

 それだけが、彼女が受け入れてしまった汚濁から彼女を救う唯一の手立てのはずだった。

 人は、生きていくために汚濁に浸からずにはいられない。けれど、それを受け入れるには彼女はあまりに若すぎるはずだ。

 だというのに、彼女は私の言葉にその首を横に振った。

「嫌、絶対に忘れない。貴方のことだけは絶対に忘れない」

「痕を残そうというのか?。後悔するぞ」

「後悔したって良い。だから……」少女の眼に湛えられた涙を私は見た……見てしまった。「だから、この夜が明けて、朝が来た時、私の側にいて」

「ああ……」

 そう答えた私は、彼女と目を合わせてはいなかった。顔を逸らしていた。

 昔聞いたことがある。喧嘩をする時に絶対に相手から目を離してはいけない、と。目を最初に離したほうが勝負に負けるのだ、と。だから、この戦いに勝ったのは彼女の方だった。

「絶対だよ。絶対だからね」

「……」

 私は車のエンジンを掛けた。これ以上この場にいて、嘘を吐き続けることは辛かった。今まで嘘を吐き続けて、嘘に塗り固められた人生なのに、なぜかその時だけは自分の嘘が辛かったのだ。

「……旦那」

 言われて、私はやっと情報屋のことを思い出した。

「あぁ、お前に言っておきたいことがあってな。この件が済み次第お前は自由だ。私の情報を売るなり勝手にすると良い。だが、その娘には絶対に手を出すな」

「しませんよ、そんなこと」情報屋は肩を竦めて言った。「それに旦那の情報を売ることもしません。もうね、この仕事は辞め時だと思っていたんです。いい歳ですからね。これが良い機会ですよ」

 そう言って微笑んだ彼の顔に嘘は無さそうだった。そして、仮に嘘だったとしても、もうどうしようも無いことだった。

 私は車の窓ガラスを閉め、そして車を走らせた。

 使う機会を逸した、ポケットの拳銃がなぜか何時もより重かった。けれど、なぜかホッとしている自分に気付いて、私は奇妙な感覚を覚えた。

「あんた、あの老人を始末するつもりだったんだろう?」

 不意に後部座席の彼女が口を開いた。

 私は中毒のはずの彼女がはっきりとした口調で喋ったことに驚きながらも、そのことを表に出さずに無言のままでハンドルを握り続けたが、実際の話、彼女の言う通りだった。やはり10分という時間は短すぎる。だから、『接続者』を一人消して、『接続』を一人に絞るつもりだったのだ。

「でも、あの娘のせいでできなかったわけだ。しばらく観ないうちに甘くなったねぇ、あんたも……」

「……そうだな」

 否定するつもりは無かった。

 確かに彼女の言う通りだ。私は甘くなった。そんな風に私を変えたのは、あの少女、梅谷 舞花だ……ろうか?

 私の中に不意に疑問符が持ち上がる。

「それにしても、あんたも随分と喋るようになったじゃないか。私の知っているあんたは無愛想で無口だったんだがな」

 だが、疑問符の回答を得ることが怖くて、私は話を変えた。回答は、過去の記憶を思い出してしまったことで半ば出ていたに違いない。けれど、そのおぼろげな物が形になってしまうことが私には怖かった。

「違うね。元からそうだったんだよ。死んだ弟にはよく言われた、『姉さんはお喋りだ』ってね。けれど、その弟もいなくなって、本当の自分をさらけ出す場所もなくなって。あたしには本音の自分と、演じた自分の境界が無くなった……ただ、それだけさ」

 そして、彼女が選んだ自分は本音の自分、だということなのだろうか?

 それは分からなかったが、その話は、なぜか私には他人事に思えなかった。

 ……あの娘がいなくなって、私が選んだのが……

 私は頭を振り、その考えを頭の中から追いやった。

 今はやらなければならないことがあり、俺には余計なことを考える余裕はないのだ。

「……間違いなく君はその後で『壊れる』よ」

 だというのに思い出したのは、あの少年の言葉だった。

 これが、私が大事なことに気付く最後の機会だったのではないだろうか?と考え、私は後悔と共に心が僅かに痛むのを感じた。

「それで、あたしを助け出してまでやろうってのは何なんだい?」

 彼女の言葉が私を現実に引き戻す。

 私は、煙草に火をつけて大きく吸い込んで、煙を吐き出すと言った。

「組長の暗殺だ」

KaydiKaydi2016/05/11 15:19Is that really all there is to it because that'd be flrbbeagasting.

2009-01-11 このエントリーを含むブックマーク このエントリーのブックマークコメント

次期皇帝が決まらず、皇帝空位の状態でリクシャマー帝国において二つの事件が勃発します。

 一つは隣国、ロズゴール王国の侵攻。

 いち早く国王親政による中央集権化を成し遂げたロズゴール王国は、仇敵であるリクシャマー帝国との国境地帯に向けて兵を動かします。もっとも、記録や書籍によれば本格的にリクシャマー帝国を攻めようというのではなく、国境地帯における水争いにおいてリクシャマー帝国側の農民とロズゴール王国側の住人が揉め事を起こしたので、小競り合いになる前に大げさなぐらいの軍隊を出して両者を無理矢理(もちろんロズゴール王国側に有利な条件で)和解させるのが目的だったようです。しかし、これをロズゴール王国による条約違反の侵攻と見たリクシャマー帝国は上を下への大混乱になります。

 また、その期に乗じてか、以前より家長とその弟の不仲が噂されていた大貴族のオフマン家において、家の実務を預かる弟が家長の一家を暗殺する、という事件が発生します。

 この時、家長の一家が全員死んでいれば、それはそれで不幸なことには違いないのですが、良かったのですが、一人だけ次男が生き残ってしまいます。

 彼は瀕死の重傷でしたが、家来達を使って領内の父親と親交のあった有力者達に檄文を飛ばし、兄の亡き後家長にならんとする弟を討つための軍隊を揃えます。

 しかし、この兄である家長は良く言っても凡庸な人物で、特にカリスマがあった人間でもなく、実質上家のことは生前から弟が行っていましたから、例え正義がこの次男にあったとしても兵が集まる道理は無いはずでした。しかし、実際には彼の元には5000を超える兵が集まることになったのです。

 理由としては、弟はオフマン家の領内において既存権益を持つ有力者からその特権を取り上げ、取り上げた利益をオフマン家で管理・運営することによって資産の有効活用を行うことを兄の生前から強く主張していたからです。もし弟がそのまま兄の後を継いで家長になった日には有力者達は既存権益を失ってしまいます。

 そこで、それを阻止するために次男の下に兵が集まった、というわけです。

 対する弟も次男の兵に対抗すべく兵を集め、また他の領主達にも援軍を求めます。リクシャマー帝国は内乱の危機を迎えたのです。そして、それらを治めるためには一刻も早い皇帝の即位が必要でした。

 ……と、ここまで考えてみました。

 さて、小説の続きです。


7.行動原理/Ⅲ

 あまり高級ではないアパートの玄関を開けて出てきたのは、少し疲れた顔をした中年女性だった。

「こちらが話をしていた旦那とお嬢さんだ」

 『情報屋』がその女性に言うと、女性は無言のまま、しかし品の良い笑顔で頷いた。

「さぁ、どうぞ、お二人とも。汚い場所ですがね、安全については保証済みです」

 そう言って『情報屋』は私達を室内へと招き入れた。

 アパートのその室内は家具こそ少なく高価な物は無かったが、非常に小奇麗な場所だった。

「念のために、このアパートの住人についても調べて見ましたが、闇金とか街金から金を摘んでいる連中はいませんでした。まぁ、余分な金を持っている奴もいませんでしたがね」

「そういうことまで分かるものなのか?」

 私の質問に「蛇の道は蛇でさぁ」と『情報屋』は答えた。多分、信頼しても良いだろう。

「しかし、どういう関係なんだ、彼女。どう観ても一般人だが?」

 私が聞くと、『情報屋』は恥ずかしそうに顔を背けながら、そっと小指を立てて見せた。

「意外だな」

「そう言わないでくださいや」

 そう言って『情報屋』は照れくさそうに頭を掻いた。

「いや、お前ならもう少し派手な若い女でも愛人にしているんだと思っていた」

「この歳になるとね、そういう女じゃなくて、傍にいると心が安らぐ人間が恋しくなるんですよ。人の気持ちが分かってくれる優しい女、というか……少し古い流行り言葉で言えば『癒し系』ですかね」

 ……そういうものなのだろうか?

 私は、自分の言葉に照れて頭を掻き続ける『情報屋』に「まぁ、良い。ところで百合池の組の件だが……」と話を切り出した。

「はぁ、その件なんですがね……」

「百合池の組とは手打ちになるそうだな」私は『情報屋』の台詞を先取りして言った。「残念だ。対立関係にでもなってくれれば、立ち回り方によっては武器や人手を調達できると思ったのにな……」

「知ってたんですか」

「藤遠に教えてもらった」

 私はそう言って、煙草を咥えようとしたが、「旦那、この部屋は禁煙でして」とすまなそうに『情報屋』が言ってきた。

「あの女が嫌がるからか?」

 私が聞くと、「へぇ」とはにかむようにして『情報屋』は言った。それは今までにない彼の表情だった。

 女の方を見ると、彼女は炬燵に遠慮がちに足を入れながら不安な表情で小さくなっている少女に「哀しいことがあったのね」と話しかけていた。

「でも、もう心配しないで。大丈夫だから」

 その優しい表情で語りかける言葉に安心したのか、少女は警戒していたような表情を解いた。そして、それを傍から聞いていた私は、また過去の思い出を、封印した筈の記憶の井戸から自分でも意識しないうちに汲み上げる。

 複数人の年長者相手の喧嘩をして公園で倒れていた少年時代の幼い私、それを見つけてくれたあの少女は私を自分の家まで連れて行き、怪我を治療してくれながら今の彼女と同じ言葉を口にしたのだ。

 思えば、少年時代の私は無口な人間だった。なのに、彼女の前では、例えそれが減らず口であったにしろ思ったことを口に出来た。そして、彼女はいつも笑いながら、そう、あの無理に作った笑顔で私の話を聞いてくれた。

『お姉ちゃんはどうして、そんな顔で笑うの?』

 ある日私は聞いた。彼女は暫く考えたような顔をしてから、『どうしてかなぁ?』とやはり同じような顔で笑った。思えば、それが最期の会話だった。

 翌日の公園、やっぱり喧嘩で傷だらけになった私の元に彼女は現れなかった。陽が傾き、夕焼け空の茜色が星空の青黒い色に変わっても、彼女は姿を現さなかった。私は不安になり、気がつけば、一度だけ上げてもらった彼女の家、小さなアパートの一室へと走っていた。途中で何度も息が切れそうになったのを覚えている。けれど、一度心の中で膨張した不安は、私が足を休めるのを許さなかった。そして……彼女のアパートの前に止まるパトカーと救急車、そして彼女の部屋の前の人垣を私は見てしまった。

『無理心中ですって……』

『あそこの家、お父さんがまともに働いていなかったみたいですしねぇ。かなりの借金を作っていたらしいですよ』

『だからと言って娘さんまで……』

 私の頭はもうまともに働いていなかった。私は人垣を押しのけ、立ち入り禁止のテープを破って室内に入ろうとしていた。それを見て、警官が私を止めようとしたが、私は暴れて警官を振りほどこうとした。

『離せ!、離せよ!』

 しかし、所詮は子供の力だった。私は事件現場から連れ出され、その直後に3つの担架が部屋から運び出された。

 私は担架の中身を見たわけではなかった。けれど、分かってしまった、そのうち最期に運び出された担架にかけられた白いシーツの中身が誰なのかを……

『何でも、借金の返済の足しに、親父さん、娘さんに"売り"をやらせていたらしいですよ』

 私の背後で誰かが言った。その言葉が意味することが何なのかは、私にも分かる事だった。気がつけば、私は振り返り、その大人に殴りかかっていた。

 その後、どうなったのだろうか?

 気がつけば私は仰向けにアスファルトの地面の上に倒れていて、冷たく蒼く光る月の光が私を照らしていた。

 私はフラフラと立ち上がると、あの公園に戻った。そして、二人でよく話をしたブランコに腰掛けた。

 哀しかった……現実を認めたくなかった……胸にポッカリと穴が開いたみたいだった……なのに、涙は流れなかった。

 私はただ乱暴にブランコを漕ぎながら、呟き続けた。

「やっぱり世の中には奪う奴と奪われる奴しかいないんじゃないか。与えて助ける側なんて、自分の間抜けさを勘違いして背伸びしているだけの奴じゃないか」

 きっとあの時の私は自分に言い聞かせていたのだと思う。

 現実を認めるために……少女の面影を時分の記憶から消すために……そして、泣き出さないために

 月の光に照らされて、私はいつまでもブランコを漕ぎ続けていた。

「……旦那?」

 『情報屋』の声に私は我に返り、とうとう、思い出してしまったか、と溜息を吐いて、過去の記憶を述懐する。

 あの後の私の人生はお定まりのコースだった。もともと乱暴だった性格はさらに乱暴になり、歳をとり腕力が強くなって体力がつくにつれ、行動は日に日に凶暴になっていった。その凶行を恐れて、『狂犬』と誰かが呼ぶようになり、気がつけば私は町を牛耳る暴力団から誘いを受けていた。私は拒まなかった。そして、『御曹司』と出会い、迷わず『始末者』という名前の『人殺し』になっていた。

 今思い起こせば、あの時、「任務」で殺していたのは……ナイフで突き刺し、銃の引き金を引いていた相手はきっと自分自身だったのだろう。自分自身の残った良心と、あの時少女の言葉に揺り動かされた自身の感情だったのだろう。

 けれど、結局、私には殺しきれなかった……何度殺しても、それは蘇ったから。何度汚しても、それは立ち上がることを、存在することを止めなかったから……だから

「旦那?どうしたんですかい?」

「いや、何でもない」私は言った。「それより武器の調達と人員の調達の問題だ。まさか、拳銃一丁とナイフ一本で立ち向かえるはずもない……」

「そんな事ができるのはアクション映画か漫画の主人公だけでさぁ」

 『情報屋』は言ったが、その通りだ。私の『再生者』としての能力も、アクション映画か漫画の主人公みたいなものだが、それでも、まがりなりにも、常に腕利きかつ多数の護衛に守られた広域暴力団の組長を確実に殺るには不十分だ。

「人員は無理でも武器ぐらいは調達したいものだが……どうしたものだろうな?」

 考え込む私に、「それなら……」と『情報屋』は何かを提案しようとしてきたが、「待て」と私はそれを制止した。『探索者』としての私の能力が、ある気配を察知したからだ。それはあの『誘導者』の少女の気配だった。

 その気配は、私達のいるアパートの近くまで来て動きを止めた。私の場所が分かっているのに、接触するのを躊躇っているようにも感じられた。

「旦那、さっきからどうしたんですかい?」

「あぁ、その前に少し解決しなければならない問題があるようだ。少し出かけてくる。戻ってきてから、お前の提案については聞かせてもらう」

 私はそう言うと、『情報屋』から踵を返してアパートを出た。

 アパートから少し歩くと、そこに少女はいた。

「こんばんわ」呆気にとられるぐらいに当たり前の返事を、当たり前の口調で少女はしてきた。「良かった。気付いてはくれると思ってましたが、無視されるんじゃないかと不安だったんです」

「……よく、ここが分かったな」

 私は言った。私の感知する限りでは彼女は『探索者』ではない。その彼女がどうして私の場所に気付いたのだろう?。

「今はこういう便利なものがありますから」

 そう言って少女は携帯電話をジャケットのポケットから取り出してみせた。

 なるほど、他の『探索者』に私の位置を調べさせたらしい。世の中、つくづく便利になったものだ。

「それで、何の用だ?」

「幾つか確認させてもらいたいと思いまして……宜しいでしょうか?」

 彼女の口調はあくまで穏やかだったが、その声音に少し強張ったものがあることに私は気付いた。つまりは、回答次第ではあまり穏やかじゃない結末もありえる質問だということだろう。

「一つ目の質問です、やっぱり考え直して今すぐに私について来てくれる気はありませんか?」

「それはできない」

 私は答えたが、彼女は以前のように「なぜ?」と理由を聞いてこなかった。そのことが、私の中で仮定を確信に変えた。

「二つ目です。最近、この街で三つの殺人事件が発生しました。元暴力団の男性の射殺事件、その娘である少女の強盗殺人事件、暴力団幹部の射殺事件です。この事件についてあなたは何か知っていますか?」

「もちろん知っている」

 私は言った。惚けたり、隠し事をしても意味が無いことだ。そして、次に彼女が何を聞きたいのかも私には分かった。

「それで、もしかして君は私がその件に絡んでいるのかを聞きたいのかね?」

「ええ、特にあなたが私と一緒に来てくれない理由がそれなのかをお聞きしたいです」

 暫くの沈黙の後で、「そうだ」と私は答えた。

「私にはすべきことがある。だから君にはついて行けない」

「その『すべきこと』は、『犯罪になること』でしか出来ないんですか?」

「それ以外の方法では難しいだろうな。少なくとも私には思いつかない」

 そして、根拠は無かったが、多分それ以外の方法では失敗するだろうことを私は察していた。「奪う」ことでしか生きてこなかった人間には、「与える」ことも「守る」ことも「奪う」行為でしか行うことはできないのだ。

「何をしたいのか、私に相談してもらえませんか?。一緒に考えれば良い考えが思い浮かぶかも知れません」

 ……相談する、か……それも一つの手かもしれないな

 私は思ったが、結局口から出てきた言葉は「残念だが、断らせてもらう」というものだった。

「これは私の問題だ。部外者の君が首を突っ込む問題じゃない」

「どうして、そうやって他人を信頼しないんですか?」

 そう言って彼女は俯きながら、悲しむような、そして哀れむような口調で言った。

「私は、同じ『再生者』としてあなたを助けたい……ただ、それだけなんです」

「そして、私を助けることで君は、どういう利益を得るんだい?」

 私は意地悪く口元を歪めながら彼女に、嘲るような口調で聞いていた。

 それは考えて言った台詞ではなく、ただ、彼女を見ていて殆ど反射的に口にしてしまった台詞だった。

「そんな、利益とか、そいうのじゃないです」

「ふん、どうだかな」

 私はまた意地の悪い台詞を口にしていたが、気がつけば私の口調は苛だったものに、そして表情は険しいものに変わっていた。気に入らなかったのだ、彼女の言葉も、仕草も……これはまるで……

 私は頭を振り、思い出しそうになった記憶を振り払おうとした。

「私はね、他人から哀れまれたり、余計なお節介を受けるのは嫌いだ」だから言った、もう私のことは相手にしてくれるな、と最後通牒を叩きつけるようにして。「質疑応答の時間は終わりだ。私は帰るよ」

「そういう風にしか生きてこなかったんですね」

 立ち去ろうとしていた私は、その言葉に足を止めた。

 彼女の言葉は、一瞬とはいえ私の心に突き刺さったからだ。

 無論自分でも分かっていた。そうとしか生きてこなかったことも、そうとしか生きられないことも。だが、他人からそれを指摘されることは妙に苛立たされる。

「君に私の何が分かる!?」だからなのか、吐き捨てるように私は言っていた。「『誘導者』が自分の意思を押し付けようとする厄介な連中だというのは本当だな!。君に私の心に触れる権利でもあるというのか!?。小娘が分かったようなことを言うな!」

「気に障ったのだったら謝ります。でも……嫌なんです」伏し目がちになりながら彼女は言った。「『再生者』になることで不幸になる人間を見るのは……特に、貴方は自暴自棄になっているように見えます。それが『再生者』になったことによるものなのか、元からなのかは分かりません。でも、確かなことはそのままでは、多分遅かれ早かれ不幸になる……幸せにはなれないということです。同じ『再生者』としてそんな人、放っておけるわけ無いじゃないですか」

「それこそ余計なお世話だ」

 ペッ、と私は唾を吐き捨てながら言った。

「私はね、この世で一つだけ嫌いな人種がいる。そういう人種が存在していると考えるだけで、虫唾がはしると言ってもいい。それは、『優しい』の意味が理解出来ずに、自分の間抜けさを勘違いして背伸びして他人を助ける馬鹿だ。君は、正しくその馬鹿だよ」

「だったら、あなたは何なんですか?」

 彼女の言葉に、私は顔が引きつるのを覚えた。

「貴方は、どうしてあの娘を助けようとするんですか?」

 私は一瞬だけ絶句した。

 彼女の言う通りだ、もし私の言っている理論が正しいのならば、私こそが一番の馬鹿だ。

「……何だ、本当は全て知っているんじゃないか」

 だが私は話を逸らすために、そう会話を振った。

「えぇ、ごめんなさい。本当は全て分かってます」彼女は、すまなそうにして俯きながら言った。「以前、あなたが『再生者』としての能力を使って、組織的な犯罪を起こした場合、『一族』は『誘導者』ではなく『再殺者』を派遣するという話をしましたよね。今回の件、私が派遣されるのと同時に『一族』は『再殺者』の派遣を決定しました。『再殺者』は、私が貴方との最初の交渉に失敗したという報告を受けてすぐに、あなたが自分達を察知できる圏外から、『共有・共感能力』で繋いだ人間を使って、あなたを監視しているんです」

「……私を監視していた?」

 見えるはずはないというのに、私は思わず辺りを見回した。

「はい、貴方は鋭い方ですから24時間監視することは不可能でした。でも、『探索者』との連携の元に、貴方が一人の少女と行動を共にしている事を掴んだんです」

「……例の暴漢との立ち回りが原因か」

 あの時、私は逃走しながら自分なりに自分達を追う気配を探っていたし、『情報屋』の準備した隠れ家に向かう間も尾行している人間がいないか気をつけていた。自慢ではないが、私は『始末者』だった時から、人の気配を察知することに関しては誰にも引けをとらない自信があった。だが、世の中には上には上がいるらしい。

「随分と厭らしい集団だな、君達は」

私はわざと顔をゆがめて言った。

「ごめんなさい。自分でもそう思います。でも、もしあなたがその娘を守るために『犯罪になること』をしようとしているなら、私達が彼女を保護します。それなら、良いでしょう?」

「保護?、具体的にどうしようと言うのだ?」

「例えば、熟練した能力を持つ仲間に護衛についてもらって彼女を追っ手の手がかからない場所まで逃がします。場合によってはどこか外国に逃げてもらう手配をしても構いません。何なら、特例で私達の『一族』の集落に貴方と一緒に……」

 ……外国か、それも良いかも知れないな

 私は思った。どこか外国の彼らの手の届かないところに彼女は行き、そして静かに歳をとり、いつか忘れてしまうのだ。この不幸な出来事のことも、自分が何であったのかも、そして私の事も……。だが、私の口から出たのは「それが解決方法だというのなら、その解決方法は受け入れられないな」という思ったこととは間逆の台詞だった。

「どうしてですか?」

「彼女が逃げなければならない理由も、不幸にならなければならない理由もどこにもないからだ。なのに、一人の権力者が、ただ将来敵になるかもしれない、という可能性としては低い理由だけで彼女の日常を破壊したばかりか、その命を狙おうとしている。君の言う通りにすれば彼女の命は助かるかもしれない。けれど、それは理不尽を受け入れるということだ。その理不尽が私には許せない」

 それは殆どその場で思いついた言葉だった。だが、案外自分の行動原理の説明としては間違えてはいないように思えた。

「でも……」

「交渉は決裂だ。さっさと帰りたまえ」

 私はそう言って彼女を睨みつけた。

 だが、睨みつけた私の顔は彼女にはどう映っていたのだろうか?。少なくとも、現役当時の凄みなどそこには微塵も見られなかったに違いない。何故なら現役当時の私には「何も無い」という意味で迷いが無かったというのに、今の私には迷いが生じていたからだ。本当に彼女の提案を断るべきだったのか……僅かな迷いが私に生じていた。

「仕方ありません。そういたします」

 拍子抜けするぐらいにあっさりと彼女は私の言葉を受け入れた。

「でも、今度会うときは私は貴方にこういった提案をできる立場ではなくなります。私達は敵同士になります。それは分かってもらえますよね」

 酷く哀しそうな顔をして、そんな言葉を残しながら彼女は身を翻して雪の中へと消えて行った。

 その姿を無言のまま目線で追いながら、私は先程のアパートで吸い損ねた煙草に火をつけた。

 どうしたことか、その煙草は酷く不味い味がして、口に苦かった。

 

「旦那、一体どうしたんですかい?」

 アパートの一室に戻った私を、情報屋は心配そうに言った。

「別に心配することじゃない。外に煙草を吸いに行ったようなものだ」

 大嘘も良い所だったが、私は抜け抜けと、そして落ち着いた口調でそう言ってのけた。しかし、実際には少し煙草を吸いに行ったどころの話ではなかった。少なくとも味方ではないが敵でもなかった集団はこれで敵に回り、厄介ごとの種が増えたのだから。

 ……しかし、私が追われる立場になるとはな

 『始末者』としての私は常に追う側の立場だった。それが、今度は『再殺者』と呼ばれる得体の知れない連中に終われる側の立場になり、その『再殺者』の目を潜り抜けて目的を達成しても、今度は組から追われる立場になるのだ。

 鬼ごっこの結末は「死」だ。それは今も昔も変わりが無い。今回違うのは、その結末を迎えるのは私だということだ。

 ……まるで自ら死を願って、それに向かう危険な遊戯だ

 諧謔で私はそう思ったが、その考えは何一つ間違えていない。どちらに転んでも、その結末までの時間が変わるというだけで、私のやろうとしている行為は不幸な結末しか上がりのないゲームなのだ。

 ……さて、どうしたものか?

「そう言えば、考えがあると言っていたな」

 私は、ふと情報屋の先程の言葉を思い出して聞いた。

「はい、武器はともかく人手についてなのですが……一人だけ当てがあります」

「当て、だと?」

 嫌な予感はしたが、他にすべの無い私としては今は耳を傾けるより他に無い。「具体的に誰だ?」と私は情報屋を促した。

「……旦那も一応、よく知っている方です。ただ……」

「ただ、何だ?。勿体ぶるな」

 暫くの沈黙の後、彼はその名前を口にした。

 それは予想外の、思ってもいなかった名前だった。

CaelynCaelyn2011/05/25 20:09Now I know who the brainy one is, I’ll keep loiokng for your posts.

qhovbycexbfqhovbycexbf2011/05/26 19:43eXn39M <a href="http://qtmpwyfzuuep.com/">qtmpwyfzuuep</a>

cpjnabcpjnab2011/05/27 01:111mzwmz , [url=http://dknpwhnbawzu.com/]dknpwhnbawzu[/url], [link=http://kgjyfijmcpyc.com/]kgjyfijmcpyc[/link], http://yhsfifwvkpzb.com/

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2008-10-12【ゆらぎネタ】リクシャマー帝国後継者問題 このエントリーを含むブックマーク このエントリーのブックマークコメント

次期皇帝を二人の皇子のどちらかにするかで、リクシャマー帝国の世論は二分化されます。

内乱へと発展しかねないこの問題の結論を早急に出すべく、人々は鶴の一声、帝国最大の貴族であるゼダ家がどちらの皇子を支持する声明を出すかについて待ち望みますが、ゼダ家としても簡単に声明を出すことはできない状態にありました。

なぜなら前皇帝の王妃にして二人の皇子の母親というのがゼダ家一門の出だったからです。

また、どちらの皇子を後継者とするかの対立には、各家の相続問題や、元々仲の悪かった各貴族の対立問題、利権問題等も絡んでおり、下手に後継者が決められない状態にあったのです。後継者を決めるにしても、裏づけとなる理由がなければ帝国内での何らかの騒乱は避けられない状態にあったと言っても過言ではありません。

……と、まぁ、今日は頑張ってここまで考えてみました。

さて、小説の続きです。


6.契約

 商店街の通りはいつものように人通りが多く、賑やかだった。

 私は、その商店街の通りの中に設置された古い薄汚れたベンチから雪を払いのけて腰掛け、煙草をふかした。

 最初は買い物客達が身体を休めるのに重宝がられていたこのベンチも、何時の頃からだろうか、古ぼけ、色褪せ始め、気付けば座ったら服が汚れるとばかりに誰も腰を下ろさなくなった。今では、こんな所に腰を下ろすのは身なりを気にしない酔っ払いか浮浪者か……さもなければ私のように後ろ暗い人間ぐらいのものだ。

 ……それにしても平和な光景だな

 私は、行き交う雑踏を眺めながら思った。

 程度の差はあるが、そこを行き交う人々は誰も平和そうだった。おそらく殆どの人達がこの街の裏で何が行われていて、何が蠢いているかなど知らないのだろう。もっとも、そんなことは知らないに越したことはないし、特に知ってもらいたくも無い。

 ……なぜなら我々は『社会』に寄生する寄生虫で、宿り主が自分に寄生虫がいると気付いて虫下しでも飲み始めたら大変なことになるからさ。

 私は自虐的な自分の考えに気付き、歳をとったのだな、と今更ながら気付いた。

 誰が言ったか忘れたが、愚痴と自虐は年寄りの証拠だ。

 まだ地面に敷き詰められた雪を踏みながら近づいてくる足音に気付いたのはその時だった。

 背後を振り返ると、そこには黒い皮のコートに身を包んだ長身の口髭の男、現在組の若頭を務めている藤遠がいた。彼は私を値踏みするように上から下まで眺め回すと、「どうやら名前を語る偽者ではないようだな」と独特の低い声で言った。

「それに、こんな場所に護衛無しで来るように言う所が実にお前らしい」

「習性と言うか性分でしてね」

 他人と密会するのならば人ごみの中の方が良い、というのは兄貴分だった男や御曹司が『任務』が教えてくれた仕事のコツだったが、その意味を理解するよりも早く、気付けば私にとっては身についた習慣のようなものになっていた。

「恐れ入ります。藤遠さん」

 その言葉は、普段はぶっきら棒な喋り方しかしない私だというのに、自然と敬語になっていた。藤遠という男には、私のような人間にもそうさせるだけの風格というものがある。

「それにしても驚かないんですか?。私がここにこうして存在している事に」

 私の言葉に、彼はフンと鼻で笑いながら言う。

「俺は自分の目で見たものしか信じない主義だ。お前が実は生きていたのか、それとも蘇ったのかは知らん。だが、確かで大事なことは、今お前が俺の前にいる。足が二本ついているから幽霊ではない。それだけだ」

「藤遠さんらしいですね」

 私は笑って言うと、「そう言ってくれるな」と彼もまた口元を軽く歪めて笑った。

「それで、俺にどんな用事だ?。そのまま死んだふりしてずらかった方がどう考えても得な男が、わざわざ自分を殺した組の幹部を呼び出して『生きてます』なんてアピールするぐらいだから、それなりに大事な話があるんだろう?」

「その件ですがね、藤遠さん」

私はあたりを見回し、彼が本当に誰も人を連れてこなかった事を確認して言った。自分でも気付かなかったが、その声はいつもより低いものになっていた。

「藤遠さん、貴方、組長になりたいと思いませんか?」

 私の言った言葉に、さすがの彼も一瞬驚いたように息を呑んだ。

「何かと思ったら、いきなりそんな与太話か?」

「あながち与太話を言っているわけではないと思います」私は、彼の顔から視線を外さずに言った。「今の組長には跡継ぎになる子供がいない。組長に何かがあって跡目相続の話になれば、貴方が次期組長の一番候補になる」

「お前、自分が誰に何を言っているのか分かっているのか?」

 私の言葉に、彼は私を睨みつけながら聞いてきた。それは私のような裏稼業にいた人間ですら竦み上がりそうな凄みのある睨みだった。だが「分かっているつもりです」と私はその睨みつける視線を真正面から受け止めて答えた。ここで恐れおののくようならば、この先の行動は失敗したも同然だ。

「……何が目的だ」

「『御曹司』の御息女の安全の確保です。少なくとも貴方なら、自分の保身のために年端もいかない少女の命を狙うようなことはしない」

 それが、彼女が私が身柄を確保している事を教えることになることは分かっていたが、私は素直に答えた。彼が下手な嘘や小細工が通用する相手ではないことを、私は組にいた時から知っていた。

「お前、ガキ一人の命のためにそんな大それたことをやろうと言うのか?」彼は、私の言った台詞に呆気にとられたようだった。「復讐とか、自分が組に戻るためじゃなくてか?」

「復讐なんて考えてませんよ。もともと自分の人生が碌な終わり方しないだろうことは最初から覚悟していますから。それに、組についても元々居場所が良いとは思っていなかったんで、戻りたいとも思ってません」

「つくづくお前らしい答えだな。だが、たったどうしても分からん。どうしてお前があのガキに拘る?」

 何故、と言われても困った。実を言えば私自身だって本当の理由は分からないのだ。

 私が黙っているのを見て、「まぁ良い」と彼は言った。

「今言った話、俺は聞かなかったことにする」

 ……しまった、交渉は決裂か?

 私は内心、ヒヤリとするものを感じた。

「だが、もし仮にお前がそんな大それたことに成功したらだが、『御曹司』の御息女についての暗殺指令の解除はもちろん今後一切手を出さないようにすることを約束しよう」

「つまり彼女を自由にしてくれると……」

 「その通りだ」とニヤリと彼は笑って言った。

「だが、組としては組長の殺害犯をそのままにするわけにはいかん」

 つまり、彼女の代わりに私が命を狙われることになるわけだ。彼女の場合は、その目的上、そしてその効率から考えて、組の人間や『始末者』のような人間が出てくることは無い。だが、私の場合は別だ。自分で言うのも何だが、怪我をして引退したとはいえ元『始末者』の手練の私の命をとるのに、組は総力を挙げて来るだろう。

「良いでしょう」しかし、私は答えた。「その代わり、必ず約束は守っていただきます」

「言っておくが、この契約はお前が約束を果たした後に実行される。それに、お前にとっては少しも良い所の無い契約だぞ」

 それは分かっている。否、最初から分かっていた。だから私は静かに首を縦に振った。

「なら契約は成立だ。それと、これは私の独り言だがな」そう言って彼は辺りを注意深く見回して言った。「『御曹司』とその娘二人を殺害するのに、組長は傘下の街金や闇金で首が回らなくなっているかなりの数の債務者に話を振った。無論直接ではないがな。だから、街にいる人間は全て敵だと思ったほうが良い」

「……そうですか」と私は答え、今まで目の前の雑踏が『平和な人達の群れ』に見えていたことを後悔して、心の中で舌打ちした。平和どころか、この辺り一帯にいる人間全てが彼女を狙う敵でも不思議ではない。

「……それで、彼らに武器は渡したのですか?」

「まさか。そこから足がついたのでは洒落にならん」

そうですか

 私は安堵した。それならばなんとか彼女の守り方も考えられる。

「それと百合池の組とは近いうちに手打ちになる予定だ。近日中に警備は元に戻される」

 それは痛いな、と私は思った。組と百合池の組が緊張状態にあるのならば、それを利用して私の方でも武器や兵員を調達出来るのではないか、と考えていたのだ。だが、警備が元に戻されるのならば百合池によって手に入れた情報は無駄にはならない。

「ところで質問だが、あの百合池の乱心の件、お前が絡んでいるんじゃないのか?」

「さぁ、どうでしょうね」

 私は、はぐらかしたが、勘が良い彼のことだから、私が一枚、文字通り噛んでいることには薄々気付いているのだろう。だが、どうやってそれを行ったかは、分かるまい。いつかはバレるのかもしれないが、少なくともそれは当面の話ではない。

「煙草あるか?」

「ありますが、禁煙中だったんじゃないですか?」

 私がそう言いながらも煙草の箱を差し出すと、「くだらないことだけ覚えてやがる」と箱から一本煙草を取り出して咥えた。私が、その煙草に火をつけようとすると、「やるんなら慎重にやれよ」と彼は小声で言った。

 私達の会話はそれで終わり、やがて彼が立ち去った後のベンチに残された私にはやるべき目標と来るべき未来だけが残された。

「……これで、本当に逃げられなくなったか」

 私は煙草を咥えて火をつけながら呟いた。何故、など理由探しをしている段階ではなくなったのだ。だが、そのことに安堵している自分がいるのも事実だった。

「いやぁ、結構、結構」

 背後からの声と拍手に驚いて振り返ると、そこには例の少年がいた。

「どんどん事が大事になっていくねぇ。いや、僕らには願ったり叶ったりだよ」

「君か……」私は背後を振り返りながら言った。「一体君の目的は何なんだ?」

「あんたが本懐を遂げることだよ。僕ら慈善団体みたいなものだからねぇ、ボランティアだよ」

 ……嘘くさい。

 私は思う。根拠があるわけではないが、私の勘がそう告げていた。

「そのボランティアついでに教えてあげるとね。君と君の大切なお嬢さんが寝泊りしている事務所、朝から何人かが見張っていたみたいだよ」

「……!?」

 私は思わず咥えていた煙草を落とした。少年の言葉が本当なら、今頃大変なことになっているはずだ。

「僕の調べによるとあの事務所の前にあるコンビニ、かなり経営状況がまずいらしいよ。闇金にも手を出しているようだね」

 私は少年の言葉を最期まで聞いていなかった。

 気がつけば、私は助走をつけて跳躍し、すぐ近くのあまり背の高くないビルの屋上へと跳び移り、すぐにまた別のビルの屋上へと跳躍していた。きっと私の動作は素早すぎて誰の目にも留まらなかったに違いない。実際、我に返った自分でも、『再生者』になった自分の身体能力が、ここまで向上しているとは自分でも知らなかったので驚いていた。

 自分でも最早自分が人間であるのを諦めた方が良いと思えるぐらいに僅かな時間の後、私はビルとビルの間を跳びぬけ、あの雑居ビルの屋上へと着地していた。

 ビルの屋上の扉を蹴り開け、事務所のあるフロアまで階段を駆け下りた時、銃声は響いた。

 ……しまった!

 私は舌打ちした。もう既に追っ手は彼女に迫っていたのだ。

 事務所の入り口には男が一人おののいた顔をして立ち竦んでいた。私はその男を殴り飛ばすと、事務所の中へと駆け込んだ。

 事務所には小さなナイフを手にした数人の男達と、上着の上から血をにじませて倒れている男、そして銃を構えたまま座り込んだ少女がいた。

 私は、男達が体勢を整える前に一人の腹に拳を叩き込み、もう一人の顔面に蹴りを放ち、そして最期の一人を回し蹴りで喉を潰してそれぞれ地面に這わせた。

「大丈夫か?」

 私は少女に声をかけたが、少女はまだ震える手で銃を構えたまま呆然と、もう敵はいない方向に視線を泳がせていた。

「もう、良い。もう敵はいない」

 私はなるべく優しい声で、彼女の手から拳銃を剥がすようにして離した。

「わ、私……」

「仕方なかったんだ。彼らは君を殺そうとした。君は自分の身を守った。それだけだ」

「で、でも……私、人を……」

「……傍に居てやらなかった私のせいだ。すまなかったな」

 そう言って私は少女を抱きしめた。少女は私の胸に顔を埋めて嗚咽した。

 彼女にとって今のこの世界は狂気だ、と私は思った。家族を殺されて、見知らぬ人間に命を狙われる……生き延びるためには相手を傷つけなければならない。私のような人間にとってならばともかく、彼女のような人間にとって、これを狂気を呼ばなくてなんと呼ぶのだろう?。

 ……一刻も早く、この狂気から彼女を解放しなければならない。

 私は暫く彼女を抱きしめていたが、彼女が少し落ち着いた頃を見計らってその肩を掴み、「ここにいれば、すぐに新しい追っ手が来る」と諭すように言った。

「そうなる前にここから逃げるぞ。立てるか?」

 私の問いに少女は何も答えなかったので、私は少女の手を掴み少々強引に立たせ、その身体を抱き上げた。

「どこか安全な場所まで逃げるぞ。少々乱暴な手を使うからしっかりと掴まっていろ」

 私はそう言うと、事務所の窓を開けて地面へと飛び降りた。事務所のあるフロアは5階ぐらいだったが、今の私にはそのぐらいの場所から彼女を抱えて飛び降りるのはそれほど苦になる作業ではなかった。

 突然空から飛び降りてきた非常識な珍客に、通りにいた人間達の視線が集まったが、私はそれを無視して彼女を抱えたまま雑踏の中へと駆け込んだ。私はそのまま人を押しのけて駆けたが、背後で同じように人ごみを掻き分けて追ってくる気配があった。やはり、入り口や非常階段も先程の連中の仲間が見張っていたらしい。彼らに武器は渡っていないという話だが、改造すれば人を簡単に殺傷できるモデルガンや、暴漢対策と称した武器が市井で簡単に売られているご時勢だ。真正面から彼らとぶつかるのは避けるに限る。私の腕の中の彼女にも言えることだが、その威力が高ければ高いほど、素人の扱う武器ほど怖いものはないのだ。

 ……このまま撒くか?いや……

 私は裏路地へとわざと逃げ込み、物陰に彼女を隠した。

「良いか、私が良いと言うまで絶対に動くんじゃない。声も立てるな」

 彼女は無言のまま頷いた。

 私は、急いでビルの側面の非常階段を上って身を隠し、追っ手の到着を待った。

 追っ手は身なりも年齢もバラバラな5,6人の男達だった。しかも、彼らのどの顔を見ても荒事に慣れているようには見えない。

 ……『御曹司』とその娘二人を殺害するのに、組長は傘下の街金や闇金で首が回らなくなっているかなりの数の債務者に話を振った。

 私は藤遠の話を思い出して、『反吐が出そうだ』と呟いた。それは組長のやり方に対してもそうだったが、この連中に対してもそうだった。

 いくら金に困っているからと言って、いたいけない少女を大勢で囲んで殺そうという考えに抵抗はないというのだろうか?。

 ……いや、あるんだろうな

 だが、「金が全てを支配する」時代だ。金を持ち、『奪う側』に立った人間は『奪われる側』から全てを奪うことができる。それは命も、正義も、理性も例外ではないのだろう。

 ……何を考えているんだ、私は。

 私は今更、他人の悪に憤れるほどの正義の味方ではないのだ。ただ、理由は自分でも分からないが、あの娘を守ることを欲して、その欲望の赴くままに行動しているだけの人間だ。そのためには手段は選ばないつもりだし、既に手は汚した。

「……もしかして、今まで正義の味方気取りだったのか?」

 私は呟いて鼻で自分を嗤った。だとしたらこれ以上笑える、そして身勝手な話は無い。

 そうこうしている間に、裏路地に入ってきた男のうち三人がポケットからナイフを取り出して両手で構えた。手ごわい護衛が付いているという情報は伝わっているらしい。後ろの二人はポケットに手を突っ込んだままだった。どうやらスタンガンか催涙スプレーでも持っているのだろう。

 そこまで推測すると、私は身を隠していた非常階段から彼らの背後へと飛び降りた。そして、突然の来襲者の登場に体勢を整えられない彼らに背後から次々に襲いかかった。こちらは武器も持たず素手だと言うのに、抵抗らしい抵抗も受けないまま、最期の一人が路地裏の半分凍りかけた雪上にうつ伏せに倒れるまでに、奇襲を開始してから1分と必要としなかった。彼らが素人だったこともあるだろうが、私は改めて『再生者』になった自分の力に戦慄した。

 ……やろうと思えば、小細工無しで組本部に乗り込んで、護衛を全て倒して組長を狙えるんじゃないのか?

 私は思ったが、それは自分を過大評価しすぎた迂闊な行動だろう。自分でもあの『誘導者』の少女に言ったことだが、『再生者』は不死身ではないのだ。もし間違えて銃弾等の凶器が急所に当たったりすれば、そこで全て終わりだ。

 ……やはり結局用心深くやるしかないようだな。

 私はそう思いながら、少女に出てくるように言った。

「旦那!、危ない、後ろ!!」

 背後からの声に気付いて、慌てて後ろを振り返ると、攻撃が浅かったのだろう一人の男が立ち上がり、私に背後からナイフで躍りかかろうとしていた。私は軽く男の一撃をかわし、彼が私に飛び掛ってくる勢いも利用して、カウンターで掌底を男の顎に食らわせた。男は、そのまま崩れ落ちるようにして地面に倒れた。

 私は溜息を吐きながら、「助かった」と背後からの声の主、『情報屋』に言った。

「どういたしまして。それより驚きましたよ、まさかあの事務所が襲撃されるなんて……」

「ごめんなさい」

 私の後ろから少女がか細い声で言った。確かに今回の件は、少女にも非があることだ。だが、まさかすぐ目の前に刺客が潜んでいようなどとは誰が考えただろう?。

 「良い、済んだことだ」私は少女に言い、「それより、頼んでいた件はどうなった?」と『情報屋』に聞いた。

「今回の件もあったんだ、あの事務所に彼女を隠しておくのはもう無理だろう」

「はぁ、それなら一件、あることはあるんですが……」

 言い難そうに情報屋は答えた。

AnuraAnura2012/06/04 04:52Hey, that's a cleevr way of thinking about it.

woioiexwwoioiexw2012/06/05 10:58bl4iqj , [url=http://kakndncevinl.com/]kakndncevinl[/url], [link=http://jjlhjqmqcvat.com/]jjlhjqmqcvat[/link], http://xlhmvzmvretm.com/

bhhkfoxfrebhhkfoxfre2012/06/05 16:44sk4SLZ <a href="http://yuaeiqdeznaf.com/">yuaeiqdeznaf</a>

pvfekpepvfekpe2012/06/05 19:58n5Y1ZK , [url=http://mfhfcyxepdvk.com/]mfhfcyxepdvk[/url], [link=http://wgnrswvfbtok.com/]wgnrswvfbtok[/link], http://hatraojllhww.com/

2008-10-11【もう少し導入部】リクシャマー帝国の滅亡 このエントリーを含むブックマーク このエントリーのブックマークコメント

二人の皇子は父である皇帝に分け隔てなく愛され、不穏な未来に不安を抱きながらも皇宮には平和な日々が続いた。

しかし、二人の皇子の成人も近くなった頃、一つの大事件が発生する。皇帝の事故死である。

帝国の行事である、秋狩りの最中に、皇帝の乗った馬が暴走し、皇帝は落馬してその怪我が元で逝去してしまったのだ。

当然ながら皇太子はもちろん、後継者については全く決まっていなかった。そのことによって諍いが発生することを恐れた大臣や官僚達がそのことを口にするのを憚ってきたからである。

……てな、ところまで考えてます。

さて、小説の続きです。

あ、タイトルは「蛇たちの饗宴2 ある再生者の記録」です


5.行動原理/Ⅱ

 『情報屋』の言う通り、少女、舞花は『情報屋』がオフィスとして普段使っている小さな雑居ビルの事務所にいた。彼女は不安そうな表情をしながら、俯きがちに窓の外を眺めていた。「やぁ」と我ながら不器用な笑顔で挨拶をすると、少女はゆっくりと私の方に顔を向けた。

「……」

「怖い目に遭ったな。だが、もう大丈夫だ。私は君の味方だ」

 私がそう言うと、少女は暫く躊躇った末に座っていたパイプ椅子から立ち上がり、そして私に抱きついてきた。

 余程不安な目や怖い目に遭ったのだろう、少女が震えているのが私にも分かった。私は、そっと、彼女の身体を優しく抱いた。

「……私、貴方の言う通りにしなかったから、お父さんだけじゃなくてお姉ちゃんも……」

「……知っている」

 私は、言葉に詰まる少女に、もう何も言わなくて良い、と言葉で言う代わりに、彼女を抱きしめている腕の力を少しだけ強めた。

 それだけで十分だった。

 少女は、私の胸に顔を埋めたまま、何かから解き放たれたように泣き叫んだ。

「旦那……」

「すまない、少しだけ二人にしてくれないか?」

 私が『情報屋』に言うと、『情報屋』は「へぇ」と一言答えて、部屋から出てオフィスの戸を閉めた。

 室内は私と彼女だけになった。

「すまなかったな……」

 私は、私の胸の中で泣き続ける少女にそう声をかけた。自分でも、どうしてそう言ったのかは分からなかった。

「ううん、貴方が悪いんじゃない」少女はそういって、私から離れた。「貴方の言う通りだった。ただ、それだけ」

「だが、私が御曹司の警護についていれば違う結末もあったかもしれない」

「……それは違うと思う。どっちにしても、お父さん、助からなかったと思う」

 私は、少女の言葉にどう答えて良いか分からず黙った。

「それに、私もお姉ちゃんもお父さんを見捨てて逃げるなんて出来なかったよ。だから、これは、なるべくしてなった出来事なんだ……」

 少女はそう言って私に笑顔を見せたが、それが無理をして作った笑顔なのは誰の目から見ても明らかだった。

 少女の頬を真新しい涙が伝っていたのだから……。

 私は、傍にあったパイプ椅子に腰掛けて煙草に火をつけ、そして二人の間に長い沈黙の時間が流れた。

「君は……」沈黙を破ったのは私の方だった。「お父さんとお姉さんの復讐をしたいか?」

 少女は私の言葉に大きく目を見開いてキョトンとした顔をしたが、すぐに俯いて首を横に振った。

「本当に?」

「本当はね、お父さんやお姉ちゃんを殺した奴らに仕返ししてやりたいとも思わなくも無いよ。でも、そうしたらまた血が流れるんでしょう?。もう、これ以上人が死ぬのは嫌」

「優しいんだな、君は」

 私はそう彼女に言ったが、それは他に言うべき台詞が思いつかなかったからに過ぎない。

 私はパイプ椅子から立ち上がり、「新しく潜伏先が見つかるまで、不自由だろうがここにいると良い」と彼女に声をかけ、部屋を後にした。部屋の外では、情報屋が飲み終えた缶コーヒーの缶を灰皿にして壁に寄りかかりながら煙草を吸っていた。

「それで、組の連中は未だに『御曹司』の娘を探しているのか?」

「へぇ、百合池の件があったんで、そちらに裂く人手は減らしているようですが、依然としてお嬢さんを探し続けていることには変わりありません」

 私は、缶コーヒーの缶で煙草を揉み消しながら、「よく今まで見つからなかったな、あの娘」と言った。

「子供の交友範囲ってのは、案外大人には分からないものなんですよ」

 『情報屋』の言葉に、「そういうものか」と答え、私は「それで『御曹司』の娘はどこに居た?」と聞いた。

「貴方のアパートの前ですよ。危ないところでした。あそこも本当は見張られていたんですが、百合池の件で組長が見張りを護衛に当てるために引き上げさせた直後だったんです」

「随分と無茶をしたな、あの娘」

「それだけ貴方のことを信頼していたって事じゃないですかね?」

 その言葉に怪訝そうな顔をする私に、『情報屋』はニヤリと笑って見せた。

「彼女を街の外へ逃がす事は可能か?」

「駅や街の外に通じるバスのバス停のような交通機関は全て見張られています。車を用意して、それでお嬢さんを街の外へ逃がすことは難しいことではありません。ただ、問題は逃がした後です。奴らが追跡を諦めるとは思えません。逃げていても、必ずどこかで尻尾を掴まれます」

「だろうな……」

 私は新しい煙草に火をつけながら言った。

 あの執念深い組長のことだ、外国へでも逃亡しない限り日本中に部下を遣って彼女を探し回りかねない。

「『御曹司』や先代に縁のある、独立系の組に保護してもらうということは?」

「中国系マフィアとかの外国人マフィアに預かってもらうことも考えましたよ。でもね、先代や『御曹司』と縁のあった組織は軒並み組と友好関係にあるんです。それに組は、先代や『御曹司』の居た頃よりずっと大きくなっているんですぜ。その組と事を構えてまで仁義を守ろうという組織はありませんや」

 それに、それらの組織が彼女を神輿に担いだりして事を起こす可能性も排除できない。私はできれば少女をそんな醜い争いの渦中に置きたくは無かった。

「組の若頭は藤遠さんだったな。あの人は、今回の件、どう思っているんだ?」

「へぇ、藤遠さんは元々『御曹司』は周りが担ごうとしても神輿にならないと主張してらっしゃいましたから、口にこそ出してませんが、お嬢さんに関してこれ以上手を出すことには反対でしょうね。でも……旦那?……まさか!?」

 私は何も答えず、煙草の煙を吐き出した。私の考えが分かったのだろう、「無茶だ、旦那!」と『情報屋』は言った。

「旦那がいくら、そんな力を身に付けたからと言って、相手は……」

「私はね、不器用な男だ。だから、不器用には不器用なりの決着しかつけることはできない」

 私がそう言うと、『情報屋』は絶望的な顔になって頭を抱えて座り込んだ。

 彼はきっと、逃げるものなら逃げたいし、裏切れるものならさっさと裏切りたいだろう。だが、逃げようにも、裏切ろうにも私に呪縛を受けていてそれは不可能なのだ。

「だが、まだそうすると決めたわけじゃない。何をするにしても今は情報が足りない」

「そりゃ、そうですがね……」

 情けない顔をして、『情報屋』は腰を上げた。

「とにかく、お前は俺に言われたことをやってくれ。それと、藤遠さんと話がしたい。連絡役になってもらえるか?」

「……どうせ、断ることはできないんでしょ?」

 『情報屋』はそういうと、トボトボとその場を後にしようとした。

「それともう一つ」

「まだ何かあるんですかい?」

「『御曹司』の御令嬢をいつまでもこんな汚い場所に匿っておくわけにもいかないだろう?。どこか適当な場所を確保してくれ」

 「否定はしませんが、汚いはあんまりでさぁ」と言って、『情報屋』は場を後にした。

 私は、再び扉を開けて事務所内に入った。少女は、すっかり安心しきったのだろう、パイプ椅子に寄りかかって静かな寝息を立てていた。

 私は室内を見回し、古いソファがあるのを見つけると、少女を抱え上げてソファまで運び、外套を脱いでかけた。

 ……本当に、なぜ、私はこんなことをしているんだろうな?

 私は、少女の寝顔を見ながら、そう思った。分からなかった……少なくとも生前の私は人に情けを掛ける性格ではなかったし、『任務』以外では極力厄介ごとは避けるタイプの人間だった。

 ……なのに何故?

 蘇って別人にでもなったというのだろうか?。いや、そんな筈はなかった。一度死んで蘇ろうと、私は私のままのはずだ。

 私はパイプ椅子を持ってきて少女の傍に置き、腰を下ろした。

 疲れていたからだろうか、私の意識はやがてゆっくりと白い眠りの闇へと落ちていった。

 だが、意識が完全に白い闇に落ちる寸前に、私は思い出していた……いつか見た夏の日の夕焼けの公園を…ベンチに腰掛けた幼い日の私と、その横にすわる年上の少女を……そして、彼女が言った言葉を……

「この世が『奪う人』と『奪われる人』だけじゃ哀しいからかな?。誰か、『与える人』がいてもいいと思うから……かな?」

 幼い日の私はその言葉をどうとらえたのだろうか?。今となっては、もう思い出すことはできなかった。

 

 

 事務所に差し込んだ朝日と街の喧騒で私は目を覚ました。

 目を覚ますと、少女は既に起きていて、テーブルの上には幾つかの菓子パンがコンビニの袋に入って置かれていた。

「どうしたんだ、これ?」

 私が聞くと、少女は黙ったまま窓の外を指差した。この事務所がある雑居ビルの前には小さなコンビニがある。そこで買ってきたというわけだろう。昨日『情報屋』に言った台詞ではないが、本当に無茶をする子だ。

「食べる?」

「いただこうか。だが、次からはこういうことはしないで欲しい」怒る気にもなれず、私は静かな口調で言った。「君は追われている、その立場は忘れないほうが良い」

 ……早いうちに、ここは出払った方が良いかもしれないな。

 私は思った。この事務所とコンビニは僅かな距離だが、彼女が組の人間に目撃された可能性もある。少なくとも、今彼女が組の人間に発見されるのはまずい。

「一つ質問しても良い?」

「何だい?」

 私は菓子パンを頬張りながら答えた。

「貴方、どうして私に味方してくれるの?」

 ……どうして?、か……

 私は菓子パンを咀嚼しながら考えたが分からなかった。

 『御曹司』に恩があるから、というのは答えとして間違えではないだろう。だが、それだけでは無いのは確かだ。人としての理性や道徳というのなら、それはお笑い種な回答だ。私は既に理性だの道徳だのを語れないほどに人の道を踏み外している。そして、それは自分で選んだことだ。

 ……ではなぜ、人の道を踏み外すことを選んだ?

 それもまた分からなかったので、俺は考えるのを止めた。「何故」を繰り返していると、そのうち疑問の迷宮に入り込みそうだったからだ。

「さぁ、分からないな」

 だから、私は素直に答えることにした。

「貴方、見た目と違って優しい人だから……というのは駄目?」

「『優しい』というのは『無力』の同義語だ」私は言った。「『優しさ』で人は救えないし、自分も救えない。『奇跡』で人が救えないのと同じだ」

「貴方は『無力』なの?」

 私は少女の言葉に答えることが出来なかった。否定も肯定も出来なかったからだ。

「間抜けだからかもしれないな」やっと出した回答はそれだった。「覚えておくと良い。世の中には『優しい』の意味が理解出来ずに、自分の間抜けさを勘違いして背伸びして他人を助ける馬鹿がいる。君はそういう馬鹿を利用して生きていくと良い」

「私、そういう考え方って嫌だな」

 少女は不満そうに言った。

「嫌でもそれが真実だ。世の中は『強い奴』が『弱い奴』から、そして『賢い奴』が『馬鹿な奴』から奪うことによって成り立っている。例外などない」

「貴方の考える世界に『与える人』は居ないの?」

 私は、少女の言葉に一瞬ハッとなった。昨日眠りに落ちる前の一瞬の刹那に見た、封印していた記憶の断片が蘇ったからだった。

 ……夕方の公園……幼い私と隣に座る年上の少女……少女は、身体のあちこちに出来た私の怪我を濡れたハンカチで優しく拭いてくれていた……そこまでは前に見た回想と同じだった。だが、私は今度は、はっきりとその時の会話を思い出していた。

『なんで俺なんかに、いつも優しくしてくれるのさ?』

 少女に問いかける私。

『俺、分かってるんだ、本当はみんなが俺のことどう思っているかって……チンピラの息子、みんな俺の事、そう思ってるんだ』

『それでも、君は君でしょ?』

 覚えている限り、少女は優しくそう言ってくれた。

『知ってるの?。世の中には奪う奴と奪われる奴しかいないんだ。父ちゃんがそう言っていた。だから、俺、絶対に奪う側に立ってやるんだ』

 なのに私はそう答えていた。きっと、優しくされることに慣れていなかったからだ。

『じゃ、私は与えて助けてあげる人になりたいな』

 そう答えた少女は微笑んでいた。けれど、その笑顔がひどく子供心にも切なく無理をして作っている笑顔に見えた。

『与えて助ける側なんて、自分の間抜けさを勘違いして背伸びしているだけの奴だよ。父ちゃんがそう言っていた』

『そうなんだ?。それでも、私は他人に与えて助けたいな』

『どうしてさ?』

 私の問いに少女は暫く首をかしげて考え、そして私の顔を真っ直ぐに見つめて笑顔で言った。

『この世が奪う人と奪われる人だけじゃ哀しいからかな?。誰か、与える人がいてもいいと思うから……かな?』

 きっと彼女はその言葉を本気で言ったのだと思う。なぜなら私を見据えるその瞳は、子供の私から見てもまっすぐに見えたからだ。

「ねぇ、どうしたの?」

 少女に言われて、私は我に返った。

 「いや、ちょっと考え事をしていたんだ」と私は答えたが、どうして私が彼女に味方しているのか少しだけ分かった気がした。

 ……要は、単なるノスタルジーなんだろうか?

 だが、どうしたことかそれも悪い気がしなかった。

「何にせよ、今回の件の片がつくまで甘い考えは捨てるんだな。どんな理想や理屈も生きていてこそ意味がある」

 少女は無言のまま私の言葉に頷いた。

「それを分かってくれたならそれで良い」私はそう言うと、ジャケットの内側のホルスターから、小型の拳銃を取り出して少女の手に握らせた。「持ってろ。その銃ならば反動も少ないから君でも扱える」

「……」

「本当ならば、この件が終わるまでいつでも君の傍に居てやりたい。だが、君を守るためには私も色々とやらなければならないこともあるからそうもいかない。だから、いざという時は自分で自分の身は守るんだ」

 少女は自分の掌の上の銃を暫く眺めていたが、その視線を私に向けた。

「銃は最期の武器だ。まずは逃げろ。逃げてどうしても退路がなくなった時に使うんだ。当てようと思うな。動く標的に当てるのはどうせ難しい。銃を持っているということと、発砲する覚悟がこちらにはあるというだけで少しは相手より優位に立てるし、相手に隙もできる。それはそのための道具だと思え」

 言って私は思わず真剣な表情を崩して噴出しそうになった。その台詞は、私が最初の『任務』の時に彼女の父親、御曹司から言われた言葉と寸分違わなかったからだ。

 「分かった」と少女が答えたのを聞いて、まさに言葉は世代を巡り巡っているわけだ、と私は思った。

 私が今日言ったこの言葉も、少女が大人になった時に誰かに語り継ぐのだろうか?。できれば、そうなって欲しくないと思う。

「その代わり、一つだけ私と約束してもらえる?」

「何だ?」

 私が聞くと、少女は私から視線を外し、伏し目がちになって黙り込んだ。

「黙っていたのでは分からないな」

 それでも少女は黙り続け、そしてやっと何かを言うために口を開こうとした。

 携帯電話が鳴ったのはその時だった。電話は『情報屋』からだった。

「旦那、若頭の藤遠と話がつきました。場所と時間によっては話をしても良いそうです」

「そうか。それでは場所と時間だが……」

 私は『情報屋』に場所と時間を告げると、少女によってちゃんと折りたたまれてソファに置いてあった外套を掴んだ。

「暫く出かける。君はここにいてくれ。携帯の番号を書いておくから、何かあったら連絡しろ。いざという時の行動は、さっき言った言葉を忘れるな」

「……まずは逃げる」

 「そういうことだ」と言って、私は事務所のドアノブに手を掛けた。「待って」と、少女の言葉がドアノブを回そうとする私の手を止めさせた。

「あの、さ……さっきの約束の件なんだけど」

 少女は暫く間をおき、そして俯きながら「やっぱり良い」と言った。

「何でもないの。ごめんね、時間とらせちゃって」

「……そうか」

 私は首をかしげながら今度こそドアを開けた。

「いってらっしゃい」

 その背中に、少女は優しく声をかけてきたが、私はそれを無言で受け流した。そうとしか生きられなかったのが私の生き方だった。

BeatriceBeatrice2011/05/25 15:58That's the best asnwer of all time! JMHO

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DaikyDaiky2013/01/29 21:39This shows real expertise. Thanks for the asnewr.

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2008-09-25【導入部】リクシャマー帝国滅亡の日 このエントリーを含むブックマーク このエントリーのブックマークコメント

 強国リクシャマー帝国の滅亡の歴史が始まったのは、皇帝に「忌み子」が産まれたからだった。「忌み子」というのは男子二人による双子のことで、昔ならば後のお家騒動を防ぐために片方は産まれた時に殺し、現在でも片方はすぐに僧院に入れるか養子に出すのが通例である。しかし、皇帝はそれを行わなかった。二人の皇子を分け隔てなく愛して育てたのだ。しかし、それが内乱の火種に、そしてその後の帝国の滅亡へと繋がろうとは誰が予想しただろうか?

 ……てな、導入部までは考えていますが、その後の動きがなかなか上手く思いつきません。

さて、小説の続きです。

4.遭遇

 「旦那……旦那!」

 誰かに揺り動かされ、私は意識を取り戻した。

 随分と長い間、自分自身の意識を失っていた気がする。

「旦那、悪い夢でも見なすったんですかい?。まるで、引き付けでも起こしたみたいに痙攣しているんで吃驚しましたぜ」

 私を起こしてくれたのは『情報屋』だった。

 私は、自分が時間になってもマンションから出てこなかった場合に、この部屋に来るように言っていたのだ。

「無理もないさ、他人の死を体感して来たんだからな」

 私は『情報屋』にそう答えて、自分の体中が冷や汗で濡れているのに気付いて、彼にタオルを探してくるように言った。『情報屋』はすぐにバスルームから、高価そうなバスタオルを探してきた。

「他人の死って……どういうことですかい?」

「百合池に『鉄砲玉』をやらせてやったのさ」私は、『情報屋』から貰ったバスタオルで顔を拭きながら答えた。「奴には勿体無いぐらいの良い死に方だったぞ」

「旦那、ご冗談を……」

「冗談かどうかは、お前の情報網を使って調べたらどうだ?。そろそろ情報が入ってくる頃じゃないのか」

 『情報屋』は慌てて、携帯電話でどこかに電話をかけた。

 私はベットの上で目を閉じ、先程まで百合池の目を通して見ていた出来事を思い出していた。

 ……組長が事務所から出てくるときの護衛の数……百合池が銃を取り出して構えた時、護衛の発砲は組長の指示なしに行われたか?……そして、発砲はどの場所から行われたか?、何人が発砲を行ったか?

 私は、つい先程までそれらを調べるため、百合池の身体を操って、彼を『鉄砲玉』として特攻させたのだった。

 私はベットから立ち上がり、電話機の横に置いてあったメモ帳を一枚破って簡単な事務所の入り口の見取り図を書き、そこに先程百合池の身体を使って調べた情報を書き込んだ。やはり、まだ『御曹司』派の生き残りの復讐を恐れているのだろう、警護は現役時代に私が知っているよりずっと厳重になっていた。だが……

「旦那、百合池は死んだそうです」青い顔をして、『情報屋』が言った。「他の系列の組や、組員には『事故による死亡』と組は発表したようですが、百合池の組の上層部には『御曹司』の仇を討つために自ら『鉄砲玉』になった、という情報が既に伝わっていて、幹部による緊急会議が開かれているそうです」

 私はペンを止め、「状況によっては一波乱あるな」と呟き、メモ帳に自分で書き込んだ情報をもう一度見直した。

「百合池の組の幹部達が報復を決意したとなると、他の組の中にも動き出す組があるかもしれない。そうなると、この警備はさらに厚くなるな」

 私は、メモを丸め、灰皿の上で火をつけた。

 メモの内容は頭の中で記憶しているし、もし警戒が厳重になるのならばこの情報は役に立たなくなる。

「百合池の組で、百合池亡き後キーマンになる人物と、潜在的に現組長の反対派になっている傘下の組について分かるか?」

「へぇ、時間があれば調べられると思います」

「それでは即座に調べてくれ」

 私は言い、『情報屋』が部屋を立ち去った後で、床に猿轡をされて縛られたまま転がされている女の縄を解いて自由にしてやった。

「人殺し!」

 自由になった彼女が最初に、怯えながらも涙混じりに言った言葉がそれだった。

 私は、百合池が座っていた椅子に腰を下ろし、煙草に火をつけながら「その通りだが」と冷静な口調で答えた。

 確かにその通りだった。百合池の件が無くても、私は既に十二分に人殺しだ。

「言ってやる、あんたがあの人を殺したって言ってやる!」

「それは無理だな……」私は答えた。「常識で考えて、死人に殺人は出来ない。それに、その場に居合わせていなかった私がどうやって百合池を殺せるんだ?」

「それは……薬を使って……」

「警察も死体解剖をして薬の有無の調査ぐらいはするだろうな。だが、何も見つからないよ。あれは、そういう薬だ」

 私は煙草の煙を吐き出しながら言った。

「あんたは……あんたはっ!!」

 女はそう言って、ふらつく足取りで私の前まで来ると、彼女なりの渾身の力で私の頬を平手で叩いた。それをかわせないこともなかったが、私は敢えてそれをかわなかった。少なくともそのぐらいのことをする権利は彼女にはあるのだ。

「気が済んだか?」私は言う。「まぁ、やりたいようにするんだな。百合池が殺した人間が蘇って、百合池を殺しました……まともな頭の持ち主なら、誰も信じないだろうよ」

 女は私の足元に泣き崩れた。

 ……私が殺してきた人間にも、このように泣き崩れた人々がいたのだろうか?

 私はふと考えたが、らしくない考えなので止めた。そんな思考は何年も前に停止したはずだった。

 私は泣き崩れる女を後にして、部屋を後にしようとした。だが、私は突然視界がぶれたのを感じて立ち止まった。

「何事も上手くいくというわけではないか……」

 通常の人間以上の身体能力を発揮することが出来るようになっても、死ぬ前に負っていた怪我まで治せるというわけではないようだった。

 私は溜息を吐き、視界が元に戻るのを待ったが、視界が元に戻った瞬間、今度はあの少年と遭遇した時と同じ感覚を感じた。

 ……近くに、何かがいる!?

 私は、室内に戻り、ベランダのドアを開けた。気配は、一つ向こうの繁華街の雑踏の中からだった。

 私は慌てて室内を出てマンションを後にした。

 ……あの少年とは違うようだが?

 繁華街に近づくにつれ、より詳細にその感覚の持ち主について分かるようになっていた。

 ……男じゃないな、女?、それも随分と小柄なようだ

 気がつけば私は走り出していた。なぜ、そうしたかは分からない。だが、私の中の何かがそうするように、私を急かしていた。

 繁華街に到着するには、左程時間は必要ではなかった。

 そして、私の察知した感覚の持ち主を見つけるのにも、それは同様だった。

 ウィンドウショッピングに興じている、二人連れの少女……そのどちらかが、私の感じた感触の持ち主のはずだった。

「君……」

 私は思わず、声をかけていたが、その瞬間にあの少年が言った言葉を思い出していた。

 ……そうそう、僕ら『再生者』には『天敵』がいるから気をつけてね。

 まさか、彼女がそうなのか?、と思った私に二人組みの少女のうちの一人、年長者なのだろう美しい長髪の少女は向き直り、そして言った。

「あなた、『再生者』ですね。私もそうなんです」

 それは、敵意も何も感じさせない緊張感の無い声だった。私は、思わずあっけにとられ、その場に立ち竦んだ。

 ……僕らの天敵は同じ『再生者』なんだ。彼らは僕らについて分かろうともしないで自分の意思を押し付けようとする厄介な連中なのさ。その中でも、特に厄介なのが『誘導者(ガイド)』と呼ばれる連中でねぇ……

「私、『誘導者(ガイド)』の御社 那唯といいまして……」

 ……なんてことだ

 私は思わず笑い出したい気分だった。あれだけ注意しろと言われた『天敵』の前に自分から飛び出してしまうとは、間抜けにも程がある。しかも、『天敵』と聞いて、私は異形の異能力者や一目でそうと分かるタイプの人間を想像していたが、目の前にいる『天敵』は、一見そうとは分からない、言われてもピンと来ない、まだあどけない少女だったのだ。

「君が……」

 私は続ける言葉を見つけようとしたが、なかなか見つけ出すことが出来なかった。ようやく見つけ出した言葉は「『天敵』なのかい?」という言葉だった。

「『天敵』?、どうしてそうなるんですか」少女は怒ったように頬を膨らませて言った。「私の仕事は、新しく『再生者』になった方を『一族』にお連れすることです。感謝されることこそあれ、『天敵』呼ばわりされる筋合いはありません。第一、同じ『再生者』同士なのに、どうして『天敵』呼ばわりされなければならないんですかっ!?」

 まぁ、そうだ。彼女の怒りももっともかもしれない。普通、『天敵』というのは捕食者と非捕食者との関係において成り立つ言葉だ。彼女がやろうとしていることが、本当に言った通りのことだけならば『天敵』という言葉は正確ではないだろう。

「なるほど、『天敵』という言葉は悪かった。謝ろう」

「分かってもらえて嬉しいです」

 そう言って彼女は、本当に嬉しそうな顔をした。

 純真な娘だな、と彼女の笑顔を見ながら私は思い、あの娘も父親や姉とか友達の前ではこんな笑顔を見せたんだろうか?、と私は、未だ行方不明の少女のことを思い出して、そう思った。

「それじゃ、さっそく一緒に行きませんか?」

 そう言って、彼女は私の方に手を差し伸べる。

「行く?。どこへ?」

 私は、彼女の差し出した手を握らずにそう聞いた。

「『一族』の所です。ちょっと、というかかなり遠いですけど、住めば都ですよ」

 ……住めば都?

 その言葉の意味を吟味して、私は苦笑した。つまり、自分と一緒に来て、自分達と一緒に生活しろ、と言っているのだ。今日びの宗教の勧誘だってここまで強引ではないはずだ。

「簡単に言ってくれるね。まず、どこに行くのか、それがどういう場所なのかの説明があっても良いんじゃないか?。それに、もし私が嫌だと言ったら?」

「どうして嫌なんですか?」

 少女が目を丸くして聞いてきたので、「逆に、どうして私を連れて行きたいんだい?」と私は質問で返した。

「それが仕事だからです」彼女はさも当たり前のことのように答えた。「それに、『再生者』が死を体験していない普通の人間の世界にいても良いことなんてありません」

 彼女の言うことにも一理あるのも事実だった。確かに私が、この『普通の人間』達の社会にいても、行き着く先は決してハッピーエンドではないだろう。もっとも、それは私が『普通の人間』だった頃から少しも変わっていないことだったが。

「ここは寒い」

 私は、彼女に言った。

 気がつけば、いつの間にか季節はずれの雪が降り始めていた。

「どこか暖かい場所で、その話をゆっくりと聞きたいものだが、どうかね?」


 私が選んだのは、大通りに面した小さな喫茶店だった。

 別にこの店の馴染みというわけでもなかったが、全く知らない店でも無かった。過去に『仕事』の打ち合わせで、二,三度使ったことがあった。だが、この店を選んだのは、単に偶々にしか過ぎない。

「珈琲をもらおうか」私は、年老いたウエイターに言った。「君達も好きなものを頼むと良い」

「じゃ、バナナパ……」

「千鶴さん!」

 バナナパフェと言おうとした千鶴という少女を、那唯という少女がたしなめ、「私達も同じものをお願いします」と言った。随分と礼儀を弁えているお嬢さんだ、と私は苦笑した。

「それで、お嬢さん方、私の方から質問させてもらおう。『一族』ってのは何なんだい?」

「簡単に言えば、『再生者』が集まって作っている集落です。周りの集落と必要最低限の付き合いはありますが、もちろん地図上には載っていません。場所は、中央アジアのあたりですね」

 那唯という少女がそう答えると、「え、そうなの」の千鶴という少女が目を丸くして、驚いたような口調で言った。

「てっきりチェコスロバキアとかユーゴスラビアみたいな、東欧のあたりだと思ってた」

「……だから、私達は『吸血鬼』のような化け物じゃないんです!。第一、そんな所に集落を作ってたらとっくに見つかってます!」

「うーん、イメージ的にお似合いなんだけどなぁ」

「やめてください、そのイメージ!」

 私はウエイターのもってきた珈琲をすすりながら、「二つ目の質問なんだが」と、果てしなく続きそうな二人の会話を中断させて言った。

「君はどうして私を連れて行こうとするんだい?」

「先程も言った通りです。『再生者』は一度死んだ人間、それも肉体が完全破壊された人間が生前の姿で再生する現象なんです。そんな人間の存在を『社会』が許容すると思いますか?。遅かれ早かれ迫害されるか、さもなければ……」

「身を守るために、『社会』と戦わざるを得なくなる」

 私は、ポケットから煙草を取り出して火をつけながら言った。

「そうです……良いことじゃないでしょう?」

「良いことじゃないね」

 私は、わざと少女の言葉に同意してみることにした。

「そうです。だから、今のうちに私と……」

「だがね、お嬢さん、多かれ少なかれ普通の人間だって、自分の身を守るために『社会』と戦っているのではないのかな?」

 我ながら面白みも何も無い言葉だったが、案の定「それは……」と少女は言葉に詰まった。

 やはりな、と私は確信する。今の言葉は彼女自身の言葉ではなく、彼女が誰かから聞いて教え込まされた言葉なのだろう。だから予想外の回答や質問が来れば困惑する。

「それにね、ここは街だ。私が『再生者』だろうと、例えそれ以上の怪物だろうと、人に紛れて生きていくことは、多少の注意さえすれば、それほど不可能なことではないよ。特に、私のように生前の自分に執着しないのであればね」

 本当は、私は生前の自分に執着している。そんなことは自分でも分かりきっていることだった。だが、今はそう答えておくのが良いように思えたので、そう答えたに過ぎない。

「じゃ、あなたは私について来てくれる気は無いんですね?」

「もし、そうだと言ったら?」

 私はわざと席から立ち上がり、壁にかけてあった外套に手を伸ばして帰る仕草を見せた。

「あなた、自分勝手です!」

 突然、彼女は机を叩き、怒ったような口調で言った。店内の少ない客とウェイターの視線が私達に集中する。

「もし、あなたがどこかで『再生者』としての能力を使ってしまって、『再生者』という存在が表に出てしまったらどうなると思うんですか!?。『再生者』なんて、本当は普通の人間の社会にいてはいけない存在なんです!。だって、誰も私達を受け入れてくれなかった……分かりますか、今まで仲良くしてくれた人達が、蘇ったというだけで私を恐れ、迫害するんですよ!。受け入れてくれたのは、昔話に出てくる怪物としての立場だけ。だから、私達は、『社会』から隔絶されて静かに暮らしていく日常を選択したんです。もう、『社会』から……元いた『社会』から拒絶されたり迫害されたりするのは嫌なんです!。なのに、あなたが自分勝手に行動してその日常が壊れたら……」

 少女は途中から声を詰まらせ、そして最期には泣き出した。

 私は、私の中に多少は残っていた罪悪感がそうさせたのか、外套のポケットからハンカチを出して彼女に差し出した。彼女はハンカチを受け取らなかったが、隣にいた少女がそれを受け取り、少女の涙を拭った。

「それが君の本音か……」私は外套を再び壁に掛け、椅子に座りなおした。「君は『再生者』になったことで、迫害された……そうではないのかね?」

 少女は無言のまま、首を縦に振った。

「だから、私にも同じ目に遭わせない様に、私を連れて行こうとしているわけだな」

 彼女は再び首を縦に振った。

「優しいんだな、君は」私は、冷めかけた珈琲を再び啜って言った。「だが、やはり今は君に同行はできない」

「どうしてなんですか?」

「やらなければならないことがある」

 私は咥えていた煙草を灰皿に押し付けて消しながら言った。

「それなら、私がそれをお手伝いします。その、犯罪にならない程度のことでしたら……」

 私は静かに、少女の目を見つめ、そうしてから随分時間を置いて「犯罪になることだ」と静かな口調で答えた。

「だから君に手伝ってもらうわけにはいかない。これは私が自分で決着をつける問題だ」

「そんな!?、そんなことさせません!。やっぱり今すぐあなたを連れて行きます」

 そういう彼女の目はまっすぐに私を見ていた。

 ……覚えている、こんな真っ直ぐな目をどこかで見たことがある

 一つは、そう、あの舞花という少女の目だ。もう一つは……思い出せない。鮮烈な印象と共に、記憶のどこかに残っている……なのに思い出すことができない。いや、思い出すことを私の記憶の回路が拒んでいる。

「なぜ、なんだ?」

「あなたが『再生者』としての能力を使って、組織的な犯罪を起こした場合、『一族』は『誘導者』ではなく『再殺者(リボーンズ・アサシン)』をよこします。彼は、私のような『誘導者』と違って、問答無用であなたを殺害した上で、あなた自身の死体はもちろん、あなたが存在していた痕跡全てを消します。あなたがどんな人であれ、そんなの、そんな風にされるのを見たくありません」

 彼女は私の独り言を勝手に解釈したらしい。

 だが、おかげで一つだけ分かったことがある。私の結末は、例え蘇ったとしても、あの若い時代の『裏稼業』に就いていた時代に悟っていた結末と変わらないということだった。

「だから、あなたがもし、それをやろうとするのならば、この場で力づくで止めます」

「力づくでね……」

 『再生者』が、常人の何倍もの身体能力を持っていることは、少年から既に聞いていた。また、『誘導者』に選ばれる『再生者』が時に力づくで物事を解決するために、各種の武術に精通していることも同様に聞いている。おそらく、そうは見えないが、彼女もまたそうなのだろう。

「言っておきますが、私、格闘技には自信がありますよ」

 それは、ハッタリではないだろうということは、私にも彼女の身のこなしからある程度予想がついていた。

 私も肉弾戦になった時のために、我流ではあるがある程度格闘技は習得していたが、おそらくまともに戦えば彼女の方に分があるだろう。そう、まともに戦うのならば……

「そのようだね。だが、隣のお嬢さんはどうかな?」

「千鶴さんとは、いつでも『共有・共感現象』が起こせるようになっています。千鶴さんはなるべく荒事に巻き込みたくないとは思っていますが、いざとなったら私が二人になると考えてもらって結構です」

「そういうことを言っているのではないのだがね」

 私はそう言って、テーブルを下からコツコツと叩いた。自分の掌ではなく拳銃で……。

 那唯という少女は、私の言った言葉の意味が分からずキョトンとした顔をしていたが、テーブルの下をそっと覗いた千鶴という少女が「那唯ちゃん……」と震えた声で彼女の服の袖を引っ張った。その時になって、那唯という少女は私の言葉の意味をやっと理解したらしい。

「あなた!」

「そうだよ、私は卑怯者だ」彼女の台詞を先取りして私は言う。「君の隣の千鶴という娘さんは普通の人間のようじゃないか。当たり所が悪ければ弾一発で殺せる。君にしても同様だ。『再生者』が不死身ではないことぐらい、私も既に知っているよ。私はね、生前は簡単に言えば殺し屋だったのでね」

 彼女には私を倒せる幾つもの術があるのだろう。だが、私の術は唯一にして、引き金を一度引くだけで事足りるのだ。

 私は、ジッと彼女を見つめた。彼女は、隣の千鶴という少女を庇おうと構えていたが、私に攻撃してくる気配は無かった。

「今は、私の事は放っておいて貰おうか」

 私は今度こそ本当に立ち上がり、外套を羽織って席を立った。

「それと、君は『社会』は再生者を認めないと言ったが、その横にいるお嬢さんはそうではないようだ。案外、君達は意固地になっているだけではないのかな?」

 少女は何も答えなかった。

 私は、無言のままの彼女達を後にして、喫茶店を出て雑踏に紛れた。

 那唯という少女が後をついてくる気配は無かった。だが……

「それで、いつまで私を尾行してくるつもりかね?」

 私は背後の気配、あの少年に言った。

「あれあれ、やっぱり分かっちゃった?」おどけた様な声が背後から聞こえてくる。「やっぱり気配を消すにしても、このぐらいじゃもう駄目か。随分と『探索者』として進歩したみたいだね」

「もともと、人の気配には敏感でね」私は背後を振り返らず、独り言を呟くようにして言った。「それで何の用だ」

「いやぁ、さっきの『誘導者』とのやりとり、立派だと思ってねぇ。何せ、まだまだ未熟とはいえ『誘導者』をぐうの音も出ないぐらいに相手をやり込めちゃったもんねぇ」

 ……聞いていたのか?

 私は改めて、この少年の能力に戦慄した。あの時、喫茶店の中には彼の気配は無かった。つまりは、完全に気配を消して私や『誘導者』の少女に気付かないように何処かに隠れていたということだ。

「僕らの『天敵』を、ああも打ちのめしてやり込めてくれると、気持ちの良いものがあったよ」

「別にやり込めたわけじゃない」私は背後を振り返り、少年に向き直って言った。「まだ、やることがあるのは本当だ」

「あぁ、あの暴力団事務所の前の一件とか?」

「……」

 私は絶句した。あの事件の発生からそれほど時間が経ったわけではなく、まだ『情報屋』ですら完全に把握しているわけではない情報をこの少年はなぜ知っているのだ?……

 私は自分の顔が自然に強張っていくのを感じた。

「怖い顔しないでよ。僕はあのお嬢ちゃん達と違って君の味方だよ。僕にしてみれば、あぁいう大きな事件を起こしてくれるとありがたいんだよね、実際」

 ……何を企んでいるんだ?

 私は、自分の額を伝う冷や汗に気付いた。

 私は、この少年に協力してもらう代わりにとんでもないことに手を貸しているのかもしれなかった。

「だから怖い顔しないでってば。僕は君のやることが『犯罪になること』でも協力してあげるつもりなんだからさ。僕のことを信頼してドンドン頼ってよ」

 私は、暫く黙った後に、それでも良いか、と開き直ることにした。

 私の起こす行動で他人がどうなろうと知ったことではない。巻き込まれる奴は巻き込まれるし、死ぬ奴は死ぬ……ただ、それだけのことだ。そして、それは私自身も例外ではない。つまりはそういうことだ。

「あの薬をもう少し都合してもらえるか?」

 私は少年に頼み込んでいた。今後、どんな行動をとるにしてもあの薬は多めに持っていて損は無い。

「良いよ。まずはこれだけね」

 そういって、少年は薬局で薬を入れるときに使う白い袋をポケットから取り出して、私に渡した。

「足りなかったら、また次回会うときにもう少し用意してくるよ」

「いや、これだけあれば十分だ」

 私は外套のポケットに袋を突っ込んで答えた。

「そうなんだ。まぁ、老婆心ながら一つ注意しておくと、二人以上の人間に『共有・共感現象』による『接続』はやらないことだね。その薬を使えば二人の人間と『接続』することは可能だけど、それ以上の人間と『接続』した場合は下手すれば君自身が精神崩壊しちゃうからね」

「ご忠告、感謝するよ」

 私はそう言って少年から離れた。途中で一度振り向くと、少年は私の方に無邪気に軽く手を振っていた。

 雪は相変わらず降り続いていた。明日にはきっと積もるのだろう、と考えたその瞬間に外套のポケットに入れていた携帯が鳴った。

「旦那……」電話は『情報屋』からだった「『御曹司』のお嬢さんのことなんですがね」

「御曹司の娘がどうした?」

 私は、頭の中で『情報屋』に話しかけた。携帯電話を通して、自分に起きた出来事に驚愕して狼狽する『情報屋』の様子が伝わってきた。

「言っただろう、お前の見るもの聞くもの触るものは私のものだ、と……だから、こういう芸当も出来る」

「はぁ……」

 『情報屋』は私の言葉に納得していないようだったが、別に納得してもらう必要などない。ただ、そういうことも出来るということさえ覚えていてもらえばそれで事足りるのだから。

「今のところ、一番安全な通信手段だ。それで、御曹司の娘がどうした?」

「はい、御曹司のお嬢さんを発見いたしましたので、身柄を確保してあります」

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