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2008-08-13

マーシクフおよびグレンデルヒ

| マーシクフおよびグレンデルヒ - 烏兎紀 を含むブックマーク はてなブックマーク - マーシクフおよびグレンデルヒ - 烏兎紀 マーシクフおよびグレンデルヒ - 烏兎紀 のブックマークコメント

 理獣マーシクフは理性を使った。結果、マーシクフは自らを殺した。

「ふは」

 グレンデルヒが、その賢き獣の死骸を見下ろす。

「ふはは。は」

「なんで笑う」

 ザリスは問う。グレンデルヒは、知れたことを、と返す。

「知れたことを。愉快だからだ。悟性を極めた獣、理性を極めた獣――その二頭が別々の思考の結果、共に同じ答を選んだ。実に愉快だ」

「さよか」

 ザリスは背を向けて、歩き出した。踵の腱に力の入らないザリスは、全身をゆらゆらと揺らめかせながら歩く。しかしなぜか、絶対に倒れそうにない安定感があった。

「待て。私を無視するのか」

「なにが」

「私から逃げられると思っているのか」

「あたしはここ通りがかっただけや。死にかかってるそいつの話を、最期にちょっとま聞いただけ。そいつが死んで、そしたら今度はあんたが通りがかった。それも、やっぱりそれだけや」

 ザリスは興味なさげに歩を進める。グレンデルヒは、なぜかまた愉快そうに笑う。

「私をこきおろすか、このグレンデルヒを! いいだろう、グレンデルヒが万能であることを、心に刻み付けて死ぬがいい!」

「たしかにあんたと勝負したら、勝てんやろうな」

「後悔するのだな!」

「けどあんたがどうやって死ぬかは、分かるわ」

 その時グレンデルヒの胸を、燃える鳥が貫いた。

「ば」

「あんたは自分の強さを自分がグレンデルヒであることに求めた」

「か」

「そりゃグレンデルヒは強いわな。でもグレンデルヒには過去がある。敗北の記憶がある」

「な」

「あんたは私らの戦いとは無関係なところで、グレンデルヒの物語の中で死んだ」

「 」

「……」

 胸に大きな穴を空けたグレンデルヒは、やがて俯けに倒れて、死んだ。

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2008-08-12

やみのもり×シバラハシア

| やみのもり×シバラハシア - 烏兎紀 を含むブックマーク はてなブックマーク - やみのもり×シバラハシア - 烏兎紀 やみのもり×シバラハシア - 烏兎紀 のブックマークコメント

倒しても、倒しても。

倒しても倒しても、倒しても倒しても。

「出てこい!」

 現れない。眠り姫は、どこだ。

 森の中は、死体で埋まっていた。現れる人影を、シバラハシアは片端から十字架で殴り殺していった。いや、殺しているわけではない。こいつらははじめから、死体だ。ただの、動く死体に過ぎない。

「出てこい! どこだ! どこにいる!」

 死体を操っているのは、この森の深奥に住まう姫だ。この森に住まうその他の全ての人間は、哲学的ゾンビに過ぎない。数百年前の伝説にはかくある。かつて森の孤城が疫病に蝕まれ、王と召使いたちは幼い姫のために命を捧げた。彼らの生命は森を覆う魔力となり、森の死者は考える死体として動き始めた。以来、姫は絶えることのない使者たちに守られて生きている。

「現れろ死に損ない! お前を殺しに来た!」

 その姫が、獣だった。だからシバラハシアは獣を狙う。森にひしめく老若男女を、倒して殺して潰し続ける。

「そんなん言われて出てくるわけないやない。ばかね」

 傍らで、小さな娘が笑った。

「……ッお、まえかッ!」

 十字架を、ひときわ大きく振るう。娘の顔が潰れて吹き飛び、身なりのよい服を纏った身体だけが残る。

「その子とちゃうよ」

 また反対の方向で、妙齢の女が呟く。一転して質素な身なりの、清貧を表したような女。子供っぽい言葉遣いが、その姿にそぐわない。

「こッの……!」

 同じく、叩き潰す。頭から縦に、釘を打ち付けるように。

「だからあ、ちがうてー」

 もう見ない。ただ声の方向に十字架を叩き付ける。

「やめてほしいな。クオリアがないいうだけで……おなじ人間やのに、ひどいわ」

 今度は、小さな男の子の声だ。迷わず、潰す。

「なら現れろ! 仲間を潰されるのが見たくないなら、こそこそせずにお前が出てこい!」

「ゆうてもな……無理やねん」

「なんだと!」

「あたし、もう死んでるよ」

「な……に……?」

 シバラハシアは初めて十字架を振るう手を止める。

「だって、この森が死びとの森になったんて、もう四百年も前やで?」

「馬鹿な……ならばこのゾンビどもは何だ? お前が生きているから、このゾンビどもも動いているのではないのか?」

「あのな、この森の人らが動けるんは、あたしの魔力やない。死びとがものを考えて動きまわれる、そういうを場所をあたしのおとうさんとか召しつかいさんたちが命をかけて遺してくれたっていう、それだけのことやねんで?」

「じゃあ、お前は何なのだ。今そうして喋っているお前は!」

「だからあ、」

 今喋っているのは……声と違和感のない若い娘だ。この森の眠り姫も、やはりこんな姿をしていたのではないかとシバラハシアは思う。

「私はしばらくこの森で死びとのみんなといっしょに暮らして、そんでふつうに年とって寿命で死んだ。でもな、この森は死びとがものを考えて動きまわれる森やねん。魔力を持ってるのは森じたいやから、私が死んでも関係あらへん。私は死んでからも、この森の中で考えて動きまわってる」

「つまり……」

 シバラハシアは十字架を降ろす。十字架を降ろし、森を見上げる。

「つまり……この森は、そういうシステムになったということか。主人の……作った者の意図を離れて、自律して動くシステムに」

「そうやね」

 シバラハシアは、溜息をつく。

「邪魔したな」

 十字架を肩に担ぎ、踵を返す。

「帰るん?」

「ああ。お前は勝てない相手だ」

「すんでる人みんな動けなくして、この森じたいを焼きはらうとかしたら、システムじたいを殺せるかもしれへんで?」

「時間の無駄だ。それに、死者に用はない」

「そおか。あたしもそうしてくれたら文句ないわあ」

 シバラハシアはもと来た道を引き返す。もうこの森に未練はないようで、自分の叩き潰した死体たちをずんずん踏み越えていく。その背中に、娘は呼び止めるような声をかけた。

「また来る?」

 シバラハシアは振り返る。

「お前は、私に出てって欲しいのか欲しくないのか、どっちだ」

「暴れてはほしくないけど、遊びにくるんやったらええよ」

 シバラハシアは頭を振り、また溜息をつく。

「そのうちな」

 それきり、シバラハシアは二度と振り返らず去っていく。

 "そのうち"は、二度と来ない。

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2008-08-11

ヨ・カネットネーブvs小ヤミー

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さわざわと、影が蠢いている。

白い影と、黒い影だ。

影は無数にある。

一方はヤミーの群であり――もう一方は【G】の群だ。

世にも恐ろしい群れと群れが、ぶつかり入り乱れている。

互いが互いを、貪っている。

すぐに死体の山が築かれるが……群れの数はそれよりも圧倒的に多い。

両群が互いを貪り尽くすまで、三日三晩を要とした。

やがて最後の一匹と一匹が喰らい合い、『G』が勝った。

ヤミーは全て息絶え、【G】がただ一匹生き残った。

勝敗は決したのだ。


 ……ぶちり、と、【G】の最後の一匹が踏み潰された。


「うまく共倒れたな」

 グレンデルヒ・ライニンサルの名を持つ美少女が、【G】の死骸を見下ろす。

「いかな獣も恐るに足りん……だがお前にだけは分が悪かった」

 グレンデルヒは静かに語る。

「なぜならお前は【G】だからだ。私と同じな。言霊を同じくするお前を相手にしたときだけ、私の完全性は揺らぐ。だから、お前との勝負だけは避けさせてもらった」

 グレンデルヒは……笑う。完全な笑みが広がる。

「お前が消えた今、私は真に完全な獣だ。さあ……早く私を勝たせに来い」

 高笑いが、響くものもなく荒野に吸い込まれていく。ヤミーと【G】の無数の死骸を後にして、グレンデルヒは栄光の舞台へと向かった。

ネオコージェ・カッサリオ

| ネオコージェ・カッサリオ - 烏兎紀 を含むブックマーク はてなブックマーク - ネオコージェ・カッサリオ - 烏兎紀 ネオコージェ・カッサリオ - 烏兎紀 のブックマークコメント

 父、カッサリオを超える。ネオコージェ・カッサリオはそれだけを考えていた。いつか父と対峙できる時を、千秋の思いで待ち望んでいた。しかし、その時はやって来なかった。

「ちがう」

 ネオコージェは、遂にカッサリオと対峙した。そのはずだった。しかしネオコージェは、そのことを認めなかった。

「自分はおとんちがう。誰や」

「何を言っている。私はカッサリオだ」

 違う。父と子の魂が、その真実を伝える。では、これは誰だ。カッサリオの姿をしたこの獣は何者だ。

「私はカッサリオだ」

 そう繰り返す獣の瞳に濁りはない。この獣は、自身をカッサリオだと確信している。どういうことか、これは。考えて、理解する。

「おとん、負けたんか」

 負けたのだ、父は。複製する獣カチナシ・ジーノントに、父は負けたのだ。

「私は、カッサリオだ」

 ネオコージェは、哀れに思った。敗れた父が哀れだったし、自身を父と錯覚するジーノントも哀れだった。そして、超えるべき存在を失った空虚がネオコージェを支配した。

「私は……カッサリオだ。ネオコージェよ、私はカッサリオだ」

「わかったて、もうええ」

 ネオコージェは、カッサリオに正対する。哀れみの目は拳で拭う。

「あたし、この日を待っててんで……勝負しようや、おとん」

 獣と獣の、拳が交わる。

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2008-08-08

ザリス(4)

| ザリス(4) - 烏兎紀 を含むブックマーク はてなブックマーク - ザリス(4) - 烏兎紀 ザリス(4) - 烏兎紀 のブックマークコメント

 日は既に落ちている。兎は、仰向けに倒れている。毛皮からは、まだ黒い煙がくすぶっている。全身が炎に包まれ抵抗できなくなったところを、ザリス自身が視線の気合いで消火したのだ。最早生きているのがやっとの状態で、兎はまだ身を起こそうとする。

「もおええて……やめや」

 拳を介した手続きを通じて、ザリスは兎の技と気合いの全てを見極めた。加えて、ザリスには自前の術士としての技能がある。二者の戦いは、ある時を境に一方的なものとなっていた。

 兎はもう、ザリスに触れることができない。兎がいかに惑乱しようとも、霊的な知覚と身体感覚を備えたザリスに拳は届かない。身体の運用と術式の連携によって繰り出されるザリスの攻撃も、兎にはもう対応できない。両者の力量差は、この時既に逆転していた。しかし兎は、まだこの戦いを続けようとしていた。

 兎の蹴りには勢いもない。ただ横に身を躱して避けるだけで、姿勢を崩した兎は地面を転がる。兎はもう、何度もこうして無効な打撃を試みていた。

「十分ちゃうんかいな……」

 ザリスには戦慄がある。これ以上何を伝えるために、兎は立ち上がるのか。既に、兎は生と死の境界にいる。何か一押しがあれば、兎は容易にあちら側へと倒れ込んでいくだろう。

 もはや跳び蹴りを放つ力もないのだろう。兎は、立てるのが不思議という有り様でザリスに歩み寄る。腕を伸ばせば届くほど、ほとんど密着といえる距離まで兎はザリスに接近した。

 兎が、拳を構える。その拳に気合いが込められていく。その濃度が、今までと格段に違う。ザリスは感じる。全身全霊が凝縮された、生命そのものの兎の拳。あそこに込められているのは、魂だ。あれは、魂の拳だ。

「あんた……死ぬで……」

 あの一撃を放てば、兎は死ぬ。ザリスにはそれが分かる。では、兎は死ぬ気なのか。兎は死ぬ気なのだ。兎が伝えようとしてるのは自身の命であり、魂だった。兎の、拳が動く。拳は、ザリスの腹を目がけている。あれを止めたとき、兎は死ぬ。では、避ければいいのか。同じことだ。魂を込めた拳を空振りにして、兎は死ぬ。兎は死ぬのだ。

「あっほが……!」

 だから、ザリスは避けない。ザリスは、兎の拳を受け止める。拳はザリスの腹を打つ。それはもう、赤子を泣かせることもできない弱々しい一撃だった。だからこの最後の一撃で、ザリスの肉体はびくともしない。そして、この最後の一撃で、ザリスの精神は吹き飛ぶほどに激しく揺れた。

 兎の魂を構成していた精神構造そのものが、ザリスの意識に流入した。手続きを経たザリスは、今やこの構造を完全に理解できる。そこに、兎の全てがあった。技があり、記憶があった。過去の痕跡があり、平行世界の写像があった。そして今、目の前で兎の肉体が崩れ落ちていく。

 ザリスは、兎を抱き留める。兎は既に死んでいる。ザリスは動かない。ザリスは、兎を抱き続ける。


 ザリスは森に兎を埋めた。適当な岩を見つけ出し、手刀で切り出し墓標と成した。ザリスは墓標に銘を刻む。その名は兎の魂から読み取った、兎が自身と認識していた唯一の真名である。真名は兎の過去、あるいは平行世界に由来している。そしてここ数年、そこにはさらに、かつてザリスが名付けた一名が加えられていた。今、ザリスは墓標にその名を刻む。


  浪士燕青オーシャット・カラス

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2008-08-07

ザリス(3)

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 兎が辛抱強く待ってくれているのをいいことに、ザリスは悠々と準備を始めた。地面に塗料をぬりつけて何重もの結界を描き、自分の属性に集中して場の力を高め、自身にあらん限りの強化を施した上に喉が渇いたので薄く溶いた砂糖水をがっこがっこ飲んだ。日はもうほとんど落ちかけ、森は薄暗くなっている。

「おぐおぐおぐ、うは。よしゃあおら正々堂々勝負したろやんけ! よけんなよ」

 実戦では絶対に待ってもらえないような長々とした詠唱の儀式を経て、一帯を炎熱が渦巻いた。森が火事になったらどうしようと思ったが遅い。たとえば「ぎょーしけんねっすとーみんぼーけーんのぉあ」などと音写できる叫び声を上げて、ザリスは用意した炎熱の渦を兎の立つその場所に集中させた。退路はない。穴を掘って逃げでもしない限り、こんがり焼けた兎肉が現れるどころか消し炭くらいしか残らない。

 実際は、兎が発動する様々なレジストによってその威力は阻まれるだろう。しかし、限界があるはずだ。この術式に対する正しい防御法は、大量の炎熱に押しつぶされる前に炎壁の薄いところを突き破って脱出することである。回避せずに受け切ろうとする兎は、その選択自体が間違っているのだ……などと余計な講釈を思い描きつつ、ザリスは兎を炎の玉で押し潰す。やり過ぎているのではないか、そう不安にならないでもないが、あの人外兎がこれでくたばる気はしなかった。はたして、熱量を維持できなくなった炎の玉が空の霊気となって発散し尽くしたとき、依然立ったままの兎の姿がその中から現れた。

「うーわないわ。むっさないわ」

 兎が炎に耐えている間、魔力の動きはなかった。一体どうやってあれを凌いだのか、魔術師のザリスには想像もつかない。せめて倒れてくれていればよかったのに、兎はまだやる気のようだった。

 今度は自分の番だとばかりに、再び兎が飛びかかる。ザリスは周辺に散った残り火をかき集め、固形炎壁を形成してこれに対した。打撃の瞬間、やはり意識を衝くものがある。受けとめた想念体は、しかし先ほどまでの不可解な集合よりも若干その構造が把握できるものになっていた。いや、そこに見覚えがあったために、ザリスにとっての認識が容易になったと言うべきか。先ほどザリスの行使した炎熱圧殺の痕跡が、そこには克明に見て取れた。

「気合い……」

 信じがたいことだったが、痕跡からはそうとしか読み取れない。兎がザリスの炎の玉に耐えきれたのは、その気合いのゆえだった。迸る気合いにより、炎の含有する熱量は兎の肉体に届く前に霊気となって掻き消されたのだ。世の理をねじ曲げる、恐るべき胆力である。

「じょ、冗談ちゃうわ!」

 この期に及んでどんな攻撃がこの兎に通用するのか分からなかったが、とにかくザリスは攻めを選んだ。炎を吹く炎の矢が兎を取り巻き、巧妙に機をずらしながら兎の肉を射貫かんとする。兎はこれを、あろうことか一本一本掴み落としていく。物理的な媒体を伴わない、形而上の矢をである。

「こんくそ……!」

 追撃に入ろうとしたとき、掴まれた一本がザリスの肩を狙って投げ返された。即座の対応ができず、また自動障壁に任せることとなる。一点に圧力を集中した鋭い火矢は自動障壁を貫き、軌道を逸らしながらもザリスの肩にわずかに触れてそのまま真っ直ぐ飛んでいった。ザリス自身は、軽い火傷を負っただけである。この時に流入してきた想念体には、先ほどの炎熱圧殺に加え、一連の火矢を巡る攻防の痕跡がやはり残されていた。

「あついちゅうね!」

 そこからは乱戦だった。ザリスは矢継ぎ早に、また平行して複数の術式を仕掛ける。兎も、もう今までのようにザリスの行動を逐一待ったりはしない。森の中を俊敏に駆け巡る兎の動きを、ザリスはほとんど認識できない。ならば、そういう戦い方をするまでだ。ザリスは兎を目で追うことを早々に諦め、その座標を霊的なマーキングによって知覚し追跡しはじめた。同時に車椅子の力学的制御を行い、不測の事態で姿勢が崩れぬよう監視する。

 打撃と炎撃の応酬が、五度、六度と繰り替えされる。そうしているうちに、ザリスは徐々に理解していく。これは、手続きなのだ。攻撃の応酬の度に、ザリスの意識には兎の拳に乗った想念が流入する。これはしかし、ザリスの操る炎にも同じことが言えるのではないか。

 ザリスと兎は、攻撃という手段で互いに想念体を交換している。その過程で想念体は少しずつ解読されていくし、伴って相手に渡される想念体の構造もまた変化していく。いまやザリスは、兎から渡される想念から痕跡以上の情報を読み取るに至っていた。兎の意図を、ザリスは理解し始める。

 超速で射出したザリスの炎撃が、今初めて兎の肉体を直撃した。防御の間に合わなかった兎は、横腹を殴られたように身をよじって土に倒れる。ザリスにとっては、ようやく決まった有効打だった。

「あんた、こういうことやりたいんか」

 兎は倒れた姿勢から跳躍し、すぐに体制を整える。これまでの経験からザリスの言葉は通じているはずなのだが、反応は一切ない。言葉はいらないとでも言わんばかりだ。

「あーそ」

 なんだか自分だけ喋り通しているのも馬鹿らしくなり、ザリスは黙る。次に小回りに回転する軌道で背後から現れ横腹を狙う蹴りを受け止めたとき、ザリスは一段とはっきりと兎の想念の構造を掴んだ気がした。ようやくザリスの方から与えた有効打が、この手続きを促進したのだと分かる。兎の求めるのがこの手続きのやりとり自体であることを、ザリスは同時に確認した。

 ふと、手が動く。そこに手を伸ばせばいいと、なんとなく理解していた。拳を作り、その拳を面前に押し出す。そこに、兎の顔面が飛び込んできた。違う。真横から飛び込もうとしていた兎の軌道を読んで、ザリスがカウンターを仕掛けたのだ。腰も何も入っていない拳は、それでも兎の勢いに反作用を与えて十分な打撃となる。兎は身体を小さく丸め、再び地面を転がった。

 ザリスは自身の変化に驚いた。今の一撃は、決して何かに操られたという種のものではなかった。半ば無意識の行動ではあったが、確かにザリス自身の計算が働いていた。これは兎の戦い方だ。兎の戦い方を、いつの間にかザリス自身がものにしている。なぜこのような計算を働かせることができるようになったのか。疑うべくもない。この場所で発生した、兎との一連の手続きによってである。

「ふほ」

 ザリスは、自身の身体感覚のありように気づく。身体のどこをどう動かせば、次にどのような事象が導かれるか。それが一枚の絵を見るようにはっきりと感覚できる。ザリスは、車椅子から腰を浮かせる。腱に力の入らない足は容易に地面に沈み込もうとするが、その軌道すらザリスには見えている。必要と感覚したほんの数点に、微々たる魔力で圧力を発生させる。それだけで、ザリスは見事自立していた。

「ふひゃひゃ」

 次の瞬間、ザリスは跳ねた。衰えた身体は、まともな運動にも耐えられない。それでも、最小限の魔力をどこにあてがえば自身の身体が思い通りの動きをするか、ザリスはすでに理解している。よろめく力すらも利用して、ザリスは右足を振り下ろす。樫の靴は完全に兎の頭をとらえている。だが、兎はこれを横飛びでかわした。回避行動に移った兎の軌道を、しかしザリスは読んでいる。蹴りのために用いた右足は既に軸足となり、同時に地を離れた左足が兎の背を追撃する。この蹴りが兎を直撃する未来を、ザリスははっきりと感覚している。数瞬の後に、この未来は現在化する。

 しかし、その時はやって来ない。兎はザリスの感覚した未来を気合いによって強引にねじ曲げ、軌道を身体一つ分隣へずらしている。ザリスの蹴りは空振りする。ザリスが自身の過ちに気づく前に、兎の拳がザリスの顎を撃ち抜いた。

「おうっげ」

 顔面を揺さぶされながらザリスは予想外の事態に動揺するが、一瞬後に得心する。この感覚が兎より伝えられたものならば、兎の方がより鋭敏な感覚を有しているのは当然である。

「てぇぬいとりよったなこの……」

 ザリスはまだ、兎の技を識りきっていない。この先があるのか、とザリスは愉快になる。そしてザリスには、兎にない自分の技がある。顎への一撃で身を反らせながら、既にザリスは意識の中で術式を組み上げている。仰け反る力をそのままに、ザリスはモーメントの軸を上半身に移動させる。結果、身体を背後に反らせようとしていた力は足を蹴り上げる力となる。蹴り足に、術式を乗せる。白熱に纏われた足が、兎の腹をとらえた。爆発する。爆風によって両者は大きく引き離される。

 腕一本を支えとして、ザリスは地に立つ。術式と蹴りを交えた一撃だったが、兎はその衝撃のほとんどを気合いで掻き消したはずだ。しかし、遂に本気を出させたという手応えがあった。兎は再び行方をくらまし、ザリスに知覚しきれない俊敏さで攪乱のために飛び駆っている。牽制の火球を有意義な座標に発現させながら、ザリスはさらに術式を組み始める。次は兎の顔面に一撃を叩き込むため、ザリスは拳に炎を握る。

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