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2008-08-05

ザリス(2)

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 ようやくザリスが泣きやんだとき、森の木々の間から見える空は赤みがかかり始めていた。日が沈むまで幾ばくもない。

 ザリスの沈黙を認めた兎は、いまだ倒れ込んだままの彼女の元に寄った。兎は放心したザリスの肩を無造作に掴む。次の瞬間、数倍の体格差のあるザリスの身体は大きく宙を舞っていた。ザリスは地面に叩きつけられ、側で転がっていた車椅子が反動で跳ねる。

「ひ」

 痛みよりも驚きで、ザリスは声をあげる。ザリスはこの兎を疎んでいた。餌を与えているわけでもないのに、どこまでも付きまとってくるこの兎。ザリスが不幸に見舞われるようになったのは、この兎が現れるようになってからだ。だから、疫病神。ザリスは兎のことをそう捉えていた。しかし兎自身がザリスに明確な害意を向けたことなど、これまでに一度もなかったのだ。それどころか、現実問題としては兎の無言の行動で救われたことが幾度もあった。だから、兎の初めての明確な攻撃に、今ザリスは愕然としていた。

「ひ……な……」

 ザリスに向けて、兎はさらに一歩を踏み出す。ザリスは肩を震わせる。これまでザリスなど眼中にないような顔をしていた兎、その双眸が今は確かにザリスを捉えている。

「なにしとん……! やめえ……!」

 蒼白のザリスは車椅子に這い縋る。車体を支えとして、なんとか上半身だけを垂直に起こした。その面前、もう一歩踏み込めば拳の届きそうな距離で、兎はザリスに正対していた。

「ちょお……い、いきなし何すんねや、ぼげぇ!」

 虚勢の声を張り上げるが、後が続かない。もとより、目的の分からない兎であった。しかしどう追い払おうと策を弄しても、その悉くを易々と避けてきたこの兎は、ザリスにとって理解の及ばぬ相手である。この超然とした兎が実は自分に対する悪意を秘めているのではないかという想像は、ザリスにとって並々ならぬ恐怖であった。その恐怖が、今目の前で実現している。

 二足歩行の兎が、片足を上げる。攻撃のための準備動作だ。次の瞬間、跳び蹴りがくる。ザリスは咄嗟に魔法盾を展開し、これを防いだ。形而下化した霊気が、光となって発散する。阻まれた兎の身体は反動で大きく後ろに跳ね、宙転をもって着地する。打撃は通らなかった。ザリスに物理的なはない……しかし、意識を揺るがすような衝撃が頭を衝いた。

「ぎゃっ」

 腕に力を込め、再び地面に倒れ込むのだけはなんとか回避する。精神攻撃か? とザリスは訝かる。しかし兎が魔力を行使した痕跡はない。このような現象を、ザリスは知らない。だがどの道、自分が兎に襲われているのは疑いようもなく明らかだった。力量差を考えると、とても打ち倒せるとは思えない。それでも、せめて逃げおおせねばならなかった。

 再び、兎の打撃がくる。今度は肩からの体当たりだ。まともに受ければ一発でのされてしまいそうな一撃だったが、ザリスはこれも魔法盾で凌ぎ切る。先ほどと同様の衝撃が、やはり意識を襲う。間髪を入れず、さらに一撃が飛んでくる。スピードを乗せた兎のパンチを、今度はカウンターの爆風で巻いて弾き返した。宙に吹き上げられて地面に激突しそうになったところを、兎は器用に身をひねって着地する。その身体にダメージらしいダメージは見られない。

 ザリスは奇妙な状況に勘付いた。自分はたしかに襲われている。しかし、兎が本気で襲いかかってくれば、勝負は一瞬でついていたはずだ。普段の兎がどれほどの敏捷性を発揮しているかを考えれば、最初の一撃に魔法盾で対応できたことすら奇跡に近い。兎は、手を抜いているとしか思えなかった。

「何のつもりじゃ……あんたぁ……」

 遊んでいるのか。あるいは、なぶり殺しにでもするつもりか。兎の態度は泰然としていて、その瞳からは敵意も何も読み取れない。

 兎が地面を蹴り、跳んだ。しかしザリスには向かってこない。木々の間に埋もれ、明後日の方向に消えた。ザリスは視線を泳がせるが、兎の姿を見つけることはできない。唐突に相手の姿を見失って、ザリスは動転した。直後、背後から殺気が襲った。防御する方向が定まりきらず、対応できない。最終セキュリティの自動障壁が発現したが、薄すぎる。攻撃を殺しきれず、ザリスの背中に物理的な衝撃が届いた。インパクトの瞬間、同時に意識にも何かが流れ込んでくる。車椅子ごと吹き飛ばされて、ザリスは地を転がった。

「っだあ! っだいつねん!」

 柔土に身体を打ち付けながら、ザリスは自分の精神を襲う衝撃を把握しようとした。どうやらそれは、容量を持った想念の塊であるらしい。攻撃ではない。精神に侵入したそれは、しかしいかなる侵略も行わず静的に留まっている。その進入の手続きに不正な痕跡は見られない。であれば、押しつけられたこの想念は一体何なのか。解読を試みたが、言語や表層的イメージとして解釈できるものではない。

 兎は、攻撃の手を休めて正面に静止している。いつ次の攻撃が来るともしれない……そう考えるべきところだが、今の兎にはその気迫がない。ただ身じろぎもせず、ザリスの次の行動を待っているようだった。

 そう、待っているのだ。その考えに、ザリスは思い至る。どういうつもりかは知らないが、兎はザリスに発破をかけているのではないか。遊び半分になぶり殺しにしようとしているのでなければ、兎の行動はそう捉えることで納得がいく。

「あほぉ……どないせっちゅね……」

 それならば……やってやれ。これはチャンスだ。余裕で構えている兎に痛恨の一撃をくれてやれば、ザリスは逃げおおせることができる。うまくいけば、あの生意気な獣をのばしてしまうことだってできるだろう。

 ここでやっと、ザリスの視線に怯えでなく敵意が宿る。それに気づいたのだろうか。兎は、挑発するように耳をふるわせた。

「余裕こきよって」

 ザリスはもう一度、車椅子に這い上がった。最後に蹴り飛ばされ転がったときに、うまいこと座席を上に向けた位置におさまったようだ。支柱は傾いでいるし車輪も回らないが、歪んだ椅子程度の役割はまだ果たしてくれるようだ。兎に動きはない。それを幸いとして、ザリスは座席に腰を下ろそうと身をよじる。

「うう……どっこいせ」

 なんとか苦労して、ザリスの尻は車椅子のあるべき場所におさまった。座り心地は悪いしやや水平性も欠いているが、地べたを這いずりながら戦うよりは幾分かましだろう兎は、やはり微動もせずザリスを正面から見つめている。

「だらぁ! よしゃあやっだらぁ!」

 ザリスが、遂に兎と相対する。

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