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烏兎紀 このページをアンテナに追加 RSSフィード

2008-08-03

ザリス(1)

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「いだあー」

 ザリスは解き放たれた。ザリスの体に腕ごと巻き付き、骨が軋むほどに締め上げていた大蛇の息はもう絶えた。ザリスは土の上を這い、芋虫のような姿で声ともいえない呻きをあげている。

「いだー。いだあー。っげえほふげぇふ」

 ザリスの顔は、土と汗と涙と鼻水にまみれていた。身体を不自然に折り曲げたまま地べたに投げ出した姿勢は耐え難いものだった。しかし背骨や脇腹や腕には激痛が残ったままで、姿勢を整えることすらできはしない。

「だー。あいだーっげえっふだいだー。うーう。うげーふわいだー」

 傍を見ると、車椅子が横転している。車椅子は、ひしゃげている。車体を支える幾本かの柱は悉く折れ曲がっているし、車輪ももはや円形を保っていない。魔術的に施した加工の文様は汚れて剥がれ、その輝きを失っている。ザリスが足の機能を失って以来、自身の足の代わりとして育ててきた車椅子に蓄積されたあらゆる力が、目の前で流れ出していく。そこにあるのは、もうただの廃品だ。それを目の当たりにして、ザリスはまた泣く。

「げえー。おげえー」

 少し離れたところに、耳の長い小さな獣が立っている。獣は微動もせず、ザリスの姿を冷然と見下ろしている。

「あいだー。おげえー。だー。うげー。ううーう。うぐうー。げえー。おげえーあ。あー。いでー。おでえー。ぐ、ぐー。ぐぐぐぐぐぐぐ」

 獣は微動もしない。獣はザリスを見下ろしている。獣は、ただ待っている。

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