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2008-05-19

死馬右京vsシバラハシア

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 娘が、山を昇って来た。

 走っている。走りながら、十字架を振り回している。その巨大な十字架を一振りするごとに、死馬右京の息子たちが二体、三体と吹き飛ばされていく。山に対する、侵略だった。

 娘の目的は、この山の主、死馬右京の命だった。それが分かっているから、死馬右京は息子たちには手を出すなと言った。それでも、山を守るため外敵に立ち向かおうとする子たちは無数にいた。しかし、圧倒的な力を持った敵の前では、そういう果敢な心を持った者から死んでいくのだ。

 獣同士の戦いなどに、興味はなかった。ただ、この山を守れればそれでよかった。獣であることよりも、この山の主であることに自分の価値を置く。そういう生き方をしてきたから、死馬右京はこの戦いのさ中にあっても山を降りるつもりはなかった。獣として宿命に反していたとしても、自分はそれで構わなかったのだ。

 しかし、あの娘は山を登って来た。山に立ち入られた以上、迎い討つしかない。山を守るため。そのためなら、どんな者と戦うことにも異存はない。命ある限り、立ち向かうまでだった。

 数百という息子たちを薙ぎ払い、遂に娘は山頂に迫った。息子たちの決死の攻撃を浴びてなお、娘は傷らしい傷も負ってはいない。だからと言って、憶すところはなかった。ただ、山を守るのみ。娘の十字架が、眼前に迫った。

 受ける。巨大に発達した鼻をしならせ、娘の十字架による打撃を阻んだ。その勢いで、鼻の側面を娘の身体に叩きつける。娘の身体が、地面に沈む。この山が娘に与えた、はじめての傷だったかもしれない。

 そのまま、踏み潰しにかかる。もとより、体重差は圧倒的だったのだ。両の前足を高く上げ、ふり降ろす。蹄は、やはり受けられた。しかし構わない。防御されれば、防具ごと叩き潰す。それが死馬右京の戦い方だ。

 さらに体重をかけようとしたとき、左の前足に痛みが走った。何かを、刺されている。十字架だ。十字架は今や二本の長板に分離していた。一方で死馬右京の蹄を受け止めたまま、もう一方で死馬右京の前足を串刺しているのだ。

 足に突き刺された長板が、横に払われる。それで、肉が大きく裂けた。腱を切られ、娘を踏み潰すための力が込められなくなる。その隙に、娘は蹄の下から抜け出した。先ほどまで十字架だった二枚の長板が、瞬く間に二度、三度と振るわれる。血が噴き出し、肉が散った。娘の狙いが自分の命であれば、これ以上山が荒らされることはないだろう。死馬右京は安堵した。

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